ドイツ映画界の虎狼、ローラント・クリック監督の映画『デッドロック』が、新宿K’s cinemaほか、全国の劇場で順次上映されています。
スピルバーグやタランティーノ、ホドルフスキー監督に絶賛されるも、日本では公開される機会がわずかしかなかった伝説のカルト映画。
今回の記事では、映画『デッドロック』のストーリーネタバレ、個人的に気になったシーンについて取り上げます。
記事を見て、ニュージャーマンシネマの栄光に背を向け続けた稀有な才能に興味を持っていただければ幸いです。
それでは、ご覧ください!
映画『デッドロック』の概要
映画『デッドロック』は、ドイツのローラント・クリック監督が1970年に制作した作品です。
アメリカ映画でありながら、第4次中東戦争前夜のイスラエル・ネゲヴ砂漠を舞台にした本作品。1970年のカンヌ映画祭のコンペ出品オファーを受けたものの、ドイツ国内の映画関係者からドイツ映画をおとしめる作品として公開を反対されます。
しかし、交渉の末なんとかカンヌ映画祭の特別上映作品として公開されることが決定。
ドイツ国内で上映されると、興行成績で成功を収め、ドイツ映画賞最高作品賞に選ばれるまでの評価を得ます。
その後、監督にはハリウッドやマカロニウエスタンの制作オファーが相次ぎますが、その誘いをすべて断り、自らの撮りたい作品を作り続ける姿勢を貫いていきます。
映画『デッドロック』ストーリー ネタバレ注意!
映画『デッドロック』は、広大な砂漠を舞台に展開する物語です。
灼熱の太陽のギラギラした光線の中、効果音とともに現れるタイトル“DEADLOCK”。
ファンタスティックでビザールな物語が幕を開けます♪
砂漠に倒れ込むキッドとデッドロックの監督官ダムの出会い
閉鎖された鉱山デッドロック。
灼熱の太陽が照りつける広大な砂漠の上を、ジェラルミンケースを持った傷だらけの男・キッド(マルクヴァルト・ボーム)がよろよろと歩いています。
その場に車で通りかかった監督官ダム(マリオ・アドルフ)は、彼を殺そうとしますが、殺しきれません。
砂漠に倒れ込むキッド。
彼が持っていたジェラルミンケースの中身を開けると、レコード盤と100万ドルの紙幣が。
ダムはキッドを自分の家に連れ帰り、介抱してやります。
もちろん、100万ドルの資金が目的です。
ダムは、キッドに言います。「おまえを2日ほど生かしておいてやる!」
キッドから金を奪う機会をうかがうダム
キッドの腕に埋め込まれた銃弾を取り除いてやるダム。
口のきけない美少女ジェシー(マーシャ・ラベン)に彼を介抱させ、アタッシュケースの金を持ち去る機会をうかがっています。
ある時、アタッシュケースを持ち逃げしようと車に乗り込むダム。
車の中には、キッドが隠れていて、金を持ち去る計画は失敗してしまいます。
サンシャイン登場。静かに殺しにやってくる!
数日後、ダムのもとに突如現れた男、サンシャイン(アンソニー・ドーソン)。
彼は、キッドの所在と大金の入ったジェラルミンケースのありかを訪ねます。
「金の隠し場所を言え!」
ダムは隙を見てサンシャインを撃とうとしますが、失敗します。
「あそこだ。あの3番目の墓」
仕方なしに墓場に行きジェラルミンケースを探すダム。
ケースが見つからないとわかると、サンシャインはダムを殴りつけます。
そして、サンシャインは行方をくらまします。
キッドを逃がそうとするダム
相変わらず、ダムの家で介抱されるキッド。
キッドには、サンシャインが現れたことを告げません。
ある時ダムは、キッドに告げます。
「お前にはものすごい大金がある。金を持ってこの場所から出てった方がいい」
彼の忠告を受け入れないキッド。
そんな中、再びサンシャインが現れます。
「あいつは狡猾な野郎だ。お前を殺そうとしている。俺があいつに飯を運ぶときに後ろから殺せ!」ダムは、キッドに提案します。
「彼は俺の友達だ」
キッドは、ダムの提案を拒否します。
そして、キッドとサンシャインはダムの家で朝を待つことになるのです。
100万ドルのジェラルミンケースを持って逃げ出すダム
キッドとサンシャインが寝静まる夜。
ダムは、こっそりとジェラルミンケースを持ち逃げしようとしますが、サンシャインに見つかってしまいます。殴られた上に、しこたま酒を飲まされるダム。
しかし、彼は諦めません。そのまま眠りにつきますが、朝の訪れととともにジェラルミンケースを持ち出し、列車に飛び乗ろうとします。
列車の男に蹴落とされるダム。
ダムを車で追いかけてきたサンシャインとキッド。
懇願するも虚しく、ダムはサンシャインによって轢き殺されてしまいます。
デッドロックを去ろうとするサンシャイン。キッドの裏切りの果てに
ジェラルミンケースを持ち、デッドロックを去ろうとするキッドとサンシャイン。
ところがキッドは、デッドロックに残ることを決めます。
一人デッドロックを去るサンシャイン。
ジェラルミンケースを開けると、その中身は金ではなくメモだったのです。
「すまないな。老いぼれ」
キッドははじめからデッドロックを去るつもりはなく、金とともにデッドロックに残ろうとしていたのです。口のきけない美少女ジェシーと恋仲になってしまったから。
キッドを追い再び舞い戻ったサンシャインは、「金はどこだ?」「金のありかを教えろ!」と、彼を殴りつけて感情を爆発させます。
そして、サンシャインは、爆発した感情の勢いそのままにジェシーやジェシーの母を撃ち殺してしまいます。
その場に残された2人の男。
キッドは、サンシャインに銃口を向けることになるのです。
映画『デッドロック』で気になったシーンについて取り上げます♪
『デッドロック』は、余計なセリフがない映画です。
そこが観ている側に余白を与え、想像力をかき立てる作品となっていたように感じました。
ここでは、映画『デッドロック』について個人的に気になったシーンについて取り上げたいと思います♪
感情豊かな女の存在感が強烈!
本作品の登場人物は、7人しか出てきません。そして、主要な人物は5人。
灼熱の太陽と広大な砂漠、なにかをあきらめた渇いた雰囲気の男たち、口のきけない美少女。
唯一、感情をむき出しにするのは、口のきけない美少女の母親だけ。
彼女は、デッドロックの元娼婦ということがダム(マリオ・アドルフ)のセリフで説明されますが、それ以外の情報はわかりません。突然、ダムに「私を抱きたいんだろ?」と迫ってみたり、キッド(マルクヴァルト・ボーム)の気を引こうとするなど常軌を逸した行動が目立ちます。
もう、誰にも相手にされない女。若い頃の唯一の武器も、衰えゆく体とともに無に帰してしまっています。
なぜ、彼女は一人だけデッドロックに残されてしまったのか?口のきけない自分の娘(マーシャ・ラベン)の父親は誰なのか?気になるところですが、その説明がないのでこちらで想像するしかありません。
映画の中で元娼婦が音楽とともに軽やかに踊るダンスシーンは、けだるい悪夢のようで妙に印象に残るシーンでした。ギラギラと照りつける灼熱の太陽は、女を慰める陽気な光だったのでしょうか?
乾いた雰囲気を醸し出す3人の男達も気になる!
感情豊かな元娼婦の女とは対照的に、乾いた雰囲気をまとった男達も気になりました。
マリオ・アドルフ演じるダム。彼は、デッドロックの監督官です。
何もない砂漠の地で希望を失い、毎日をやり過ごすしかない男。デッドロックを去りたくても、その資金もありません。そんな時に現れたキッドのジェラルミンケースの100万ドルが、彼の希望となります。しかし、その希望も儚く打ち砕かれることに。
金を持ち逃げして列車に乗り込もうとして蹴落とされるシーンは、印象的でした。
遠のいていく列車と弱々しく線路の上に転がるダム。その距離は、埋めることができない絶望の距離でした。
アンソニー・ドーソン演じる年長の殺し屋サンシャインは、非情な殺し屋です。
不適な笑みの中に、氷の心を宿す男。
ダムがジェラルミンケースを持ち逃げしようとする際に殴りつけ、「ウサギのように跳べ」といいながら、彼を撃ちます。そして、大量の酒を飲ませていびる姿は、とてつもなく冷酷でした。
アルフレッド・ヒッチコック監督の『ダイヤルMを廻せ』(1954年)でアンソニー・ドーソンが演じた殺し屋は感情の動きが伝わってきましたが、本作ではそうした感情がいっさい感じられません。
昔の電話は場所が制限されて紐を弄るぐらいしかながら作業できないから無防備ですね。構図が凡庸なだけに率直な欲望が楽しげです。
写真は無防備すぎて殺される
『ダイヤルMを回せ』 pic.twitter.com/EPQcj6EaAk— りーうよー🐧 (@uy0uy0uy0uy0) September 7, 2020
マルクヴァルト・ボーム演じるキッドは、怪我を負いながら100万ドルのジェラルミンケースを持ち、デッドロックに行き着いた若き殺し屋。
彼は100万ドルという大金を手に入れ希望を得たはずなのに、明るさは微塵もなく、ただ深い闇を感じさせます。傷を負っているせいもあるかもしれませんが、それだけではない何かが彼の中にはあるのです。
ただし、キッドの瞳には力強さが宿ります。
この瞳の輝きは、デッドロックでジェシーという希望を見つけた輝きなのでしょうか?
キッドを演じたマルクヴァルト・ボームの目の演技は、説得力を持って観ているものに訴えるものがあります。
ローラント・クリック監督の映像手法と音楽の効果的な使い方♪
ローラント・クリック監督は、本作『デッドロック』で顔のクローズアップを効果的に使っていました。サンシャインが金を持ち逃げするダムを追いかけ、ひき殺す時の顔のクローズアップ、サンシャインが叫びながら女たちを撃ち殺す時の目や口の効果的なクローズアップ。
これらの手法が全体的に暗いトーンの物語に、一瞬のインパクトを与えます。
音楽の使い方。壊れたレコードが何度も何度も同じフレーズを繰り返すシーンが印象的でした。
音の繰り返しにより起こる不安定さが、物語の結末への伏線としてとらえることもできます。
エンディングに流れるCANの曲『デッドロック』も。
ダモ鈴木のかすれた声の叫びと歌詞が、映画が終わったあとも気怠く耳に残り続けます。
「愚かなものは、火にあぶられる」
「愚かなものは、日の当たる場所を選びたがる」
デッドロックの世界観をよく表わした曲でした。
まとめ
映画『デッドロック』のストーリーや気になったシーンについて紹介してきました。
広大な砂漠とオレンジの太陽。デッドロックに暮らし続ける者とデッドロックに流れついてくる者。彼らに共通するのは退廃です。
物語の撮影場所であるイスラエル・ネゲヴ砂漠という場所も、この退廃的な空気を醸し出すのにひと役買っていました。朽ちかけた建物、薄汚れた食器、くすんだ車。すべてが退廃の象徴です。
ローラント・クリック監督は、すべて計算ずくでこのような世界観を作ったのでしょうか?
監督の作る映画は余計な説明を嫌い、観る者の想像力に委ねるところがあります。
観賞する際には自分の想像力を駆使して、多様な解釈を楽しんでみると面白いかもしれません。
公開中の映画『デッドロック』。
ローラント・クリック監督の世界観を確かめに、劇場へ足を運んでみてはいかがでしょうか?