2019年11月29日に公開される映画『ドクター・スリープ』。本作はアメリカのベストセラー作家スティーヴン・キングによる同名小説を映画化した作品です。
『ドクター・スリープ』は同じくキングの手掛けた小説『シャイニング』の続編でありますが、映画界の巨匠スタンリー・キューブリックにより映画化された『シャイニング』(1980)は原作と大きく異なることがかねてより指摘されていました。しかし、すでに全米公開された映画『ドクター・スリープ』は原作者のキングを始め批評家など多くの人からの絶賛の声が相次いでいます。
スティーヴン・キングも認めた映画『ドクター・スリープ』は、『シャイニング』の続編としてどのような映画になっているのでしょうか?
『ドクター・スリープ』作品情報などの詳細については以下の記事をご参照ください。
映画『ドクター・スリープ』は批評家からも絶賛の声
映画『ドクター・スリープ』はすでに日本に先駆けて11月8日に全米公開されており、多くの人から絶賛の声が寄せられています。予告編では「今年最高の映画」とのコメントも見られ、米国の映画レビューサイトRotten Tomatoesでは95%の満足度を得るなど大成功を収めているようです。
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— Doctor Sleep (@DoctorSleepFilm) November 9, 2019
原作者スティーヴン・キングからも太鼓判を押される!
『ドクター・スリープ』の原作者は、「モダン・ホラーの第一人者」として知られている世界的ベストセラー作家のスティーヴン・キングです。キングが自身の小説の映画化について好意的な姿勢を見せることはあまり多くありませんが、本作『ドクター・スリープ』については高く評価していることがわかります。
監督マイク・フラナガンとキングのインタビュー動画では、キングは「小説版『ドクター・スリープ』のすばらしい映画版だ。同時にキューブリック映画『シャイニング』のすばらしい続編でもある」と述べ、観るべき映画だと賞賛のコメントを寄せています。
モダン・ホラーの巨匠スティーブン・キングの最高傑作『ドクター・スリープ』
『ドクター・スリープ』は、キングの代表作の一つである『シャイニング』の続編として書かれた作品です。『シャイニング』では、主人公ジャック・トランスと幼い息子であるダニーが呪われたホテルでの惨劇に巻き込まれる様子が描かれていました。『シャイニング』が書かれた1977年から36年の時を経て出版された『ドクター・スリープ』は、現実世界で経過した時間と重なるかのように『シャイニング』の約30年後が舞台となっており、大人になったダニーを主人公として物語が展開します。
『シャイニング』で起こった事件によるトラウマを抱えているダニーは、大人になっても心の傷が癒えず酒に頼る日々を送っており、アルコール中毒に苦しんでいます。しかしある事件をきっかけにして、自身のトラウマである過去の恐怖と対峙することになる…というのが『ドクター・スリープ』の大まかなあらすじです。
実はキングは自身の作品の続編を書かないことで有名で、『シャイニング』の続編となる『ドクター・スリープ』の出版は「異例」として世間を騒がせることとなりました。映画『ドクター・スリープ』の監督を務めたフラナガンもこの事態に「狂乱した」と述べており、満を持して出版された『シャイニング』の続編はキング作品の中でも「最高傑作」として呼び声も高いようです。
『ドクター・スリープ』を執筆した理由についてキングは「大人になったダニーがずっと気になっていた。語るべき物語があると感じた」と振り返っています。普段は続編を書かないキングがこれほどダニーに肩入れするのはなぜなのでしょうか?
スティーヴン・キングは前作『シャイニング』を猛批判している?
1980年に映画化された『シャイニング』は、スタンリー・キューブリックが監督・脚本・製作を務め、主人公のジャック・トランス役にジャック・ニコルソンを迎えて製作された作品です。
映画『シャイニング』はキューブリックによる多くのこだわりがこめられた作品となり、公開当時から現在に至るまで大勢の根強いファンを獲得しています。批評家からは「モダン・ホラー映画の金字塔」「最も怖い映画」などと高い評価を得ており、鬼才キューブリックの名を世に知らしめた作品のうちの1つでもあります。
ところが原作者であるキングは、映画『シャイニング』を公開当時から「気に入らない」と公言してことあるごとに批判を浴びせており、一時はキングとキューブリックの対立も泥沼化していました。
キングが映画版『シャイニング』を嫌っている理由については、キューブリックによる大胆な脚色によって原作小説から内容が大幅に書き換えられていることが挙げられます。特にダニーの持つ特殊能力である「シャイニング(かがやき)」は、原作の中では悪と対決するための重要な位置づけとなるものでありながら、映画版では活躍の機会がほとんどカットされています。原作版『シャイニング』では「シャイニング」という力を軸にした親と子の物語であったはずが、キューブリックの映画版では恐怖を煽る部分に特化した不気味な恐怖映画となってしまっていたのです。
映画『シャイニング』公開後、長年にわたってキングはキューブリックを批判し続けていました。しかしキューブリックへのバッシングを止めることを条件として、キング自身を脚本に迎え彼の意向に沿ったドラマ版『シャイニング』を製作することが決定されたことで、一時はキングとキューブリック間の問題も解決したかのように見えました。しかしドラマ版『シャイニング』公開からわずか1年後の1998年にキューブリックが亡くなると、キングはまたキューブリック批判発言を再開してしまい、今もなおキングによる映画『シャイニング』へのバッシングは続いているようです。
キングとキューブリックの対立は別として、映画『シャイニング』は、ステディカムといった当時の新技術の積極的な採用やとことん追求された映像美に見られるように、キューブリックの卓越したセンスが遺憾なく発揮された作品であり、原作版とは内容が異なるといえど映画史に残る優れた作品であることには違いありません。
スティーヴン・キングも認める監督マイク・フラナガンの存在
DOCTOR SLEEP: Mike Flanagan is a talented director, but he’s also an excellent storyteller. The movie is a good thing. You’ll like this if you liked THE SHINING, but you’ll also like it if you liked SHAWSHANK. It’s immersive.
— Stephen King (@StephenKing) October 23, 2019
映画『ドクター・スリープ』の監督マイク・フラナガンはキングの同名小説を原作とする映画『ジェラルドのゲーム』(2014)でも監督を務めており、キングとのタッグは二度目となりました。
映画『ジェラルドのゲーム』は高い評価を得ているだけではなく、原作者のキングからも賞賛されている作品です。またフラナガン自身がキングの大ファンでもあり、フラナガンはキングの原作を尊重することを第一に考えていることもあって、キングの厚い信頼を得ているようです。
監督マイク・フラナガンによる映画『シャイニング』へのリスペクト
『ドクター・スリープ』の監督マイク・フラナガンは、原作者スティーヴン・キングの大ファンでもあり、本作の監督を務める上でも「原作に忠実であることを大前提とする」と述べています。それでも「映画監督を志すきっかけとなったのはスタンリー・キューブリックの残していったもののおかげでもある」と述べており、映画史に名を刻むキューブリックの存在と彼が手掛けた映画『シャイニング』の影響はフラナガンの中でも大きいようです。
フラナガンは『ドクター・スリープ』映画化に当たり、キングとの話し合いの段階でキューブリックの要素も入れたいと頼み込みましたが、映画版『シャイニング』を認めていないキングからの許諾を得ることは叶いませんでした。
『ドクター・スリープ』の世界観は原作版と映画版の『シャイニング』が融合?
一時は映画化をキングに断られるも、キングの意向を反映すると同時にキューブリックへのリスペクトを示す作品にするために、フラナガンは映画『シャイニング』の世界と原作『シャイニング』の世界の2つを組み合わせた世界観を作り上げたといいます。
フラナガン本人も「『シャイニング』の原作と映画との間にある溝は意識していた」と指摘しており、「自分が納得のいく形で2つの世界を繋げることができれば原作ファンも映画ファンも納得がいくはず」と意見を述べています。
こうして原作と映画版『シャイニング』の2つの世界観を融合させる形で書き上げられた脚本はキングに絶賛されるところとなり、「原作の続編としても映画版の続編としても楽しめる作品」との太鼓判まで押されました。
さらに本作はキングの満足のいく作品になっているだけではなく、キューブックの遺族も映画の出来を褒めているというのですから驚きです。キューブリックがこだわった究極の映像美の中で繰り広げられる恐怖の物語である映画『シャイニング』の続編としてもふさわしい作品となっていることが予想されます。
映画『シャイニング』の要素が散りばめられた予告編
『ドクター・スリープ』予告編では、映画『シャイニング』になじみの深い映像が多く出てきます。『シャイニング』のオープニングで流れるバルトークの重々しい音楽、鏡に映る「REDRUM」の文字、廊下から噴き出す大量の血、双子の少女、呪いの部屋237号室、雪に埋もれた迷路…。そして、ダニーの父ジャックがかつて斧で叩き壊した扉からダニーが覗き見るものとは一体何なのでしょうか?
『シャイニング』『ドクター・スリープ』両作品で重要な位置づけとなる能力「シャイニング」を中核に据えた物語でありながら、映画版『シャイニング』の要素も欠かせない映画になっていることが期待できます。
映画『シャイニング』ファンも楽しめる『ドクター・スリープ』は11月29日公開!
スティーヴン・キングによる原作に忠実でありながら、映画『シャイニング』の世界観も取り入れた映画『ドクター・スリープ』は、監督のマイク・フラナガンをはじめとした製作スタッフのこだわりの映画となっているようです。
原作ファンもキューブリック版『シャイニング』ファンも楽しめる映画『ドクター・スリープ』は2019年11月29日公開です!