口コミで話題となり、上映館数は僅かながらもロングランを続けている『アンダー・ユア・ベッド』。
ホラー小説で有名な大石圭の同名小説が『バイロケーション』などを手がけた安里麻里監督により実写化された。主人公には高い演技力評価されている高良健吾、ヒロインには『私は絶対許さない』や『ホワイトリリー』での体当たりな演技で注目された西川可奈子が抜擢。西川可奈子は、世間ではまだ有名とは言えないが、確実に今後映画界を背負って立つことのできる演技力と魅力を兼ね備えたブレイク必至の女優だ。
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『アンダー・ユア・ベッド』あらすじ
人とコミュニケーションを取ることが苦手な高良健吾演じる三井は、まるで自分は存在しないかのようにこれまで周りから扱われてきた。高校卒業の記念写真撮影の際に三井がいなかったことにクラスメイト全員が気づかないだけではなく、出来上がったアルバムを見ても、三井が写っていないことに気づかないのだ。欠席者は右上に写真が飾られるわけだが、それにすらなれなかった。大学生になっても変わらず、無気力な日々を送っていたのだが、ある授業で先生に当てられて困っていたところ、後ろの席に偶然座っていた西川可奈子演じる千尋に救われる。これまで誰からも名前を呼ばれることのなかった三井は、その時初めて千尋に名前を呼ばれ、恋に落ちる。しかし、その後深い関係になることはないまま、社会人になり、30歳を迎えた三井は不意に千尋を思い出し、どうしても会いたいという欲を抑えられず、千尋の住む家を見つけ、行ってみることに。
結婚し、1児の母となった千尋は幸せな暮らしをしているかと思いきや、夫からの激しい暴力に耐える悲惨な毎日を送っていることが判明。少しでも千尋を知るために、そばにいるために、三井の行動はエスカレートして生き、千尋の自宅のベッドの下で観察するようになる…。
男女別 レビューを総まとめ!
男性は三井(高良健吾)に感情移入
男性は三井に共感、または三井の弱い部分に苛立ちを感じる人が多いようだ。千尋がどんなに凄惨な状況に置かれていたとしても、三井のストーカー行為は決して許されることではない。しかし、物語が進むにつれ、異常なストーカー行為の数々が、まるで法律がなければ正しいと正当化されるべきもののよう思えてしまう。
自分の名前を呼んでくれた、そして、自分がこの世界に存在していることを初めて認めてくれた人である千尋に対して、三井は恋心というよりも、どうやっても拭いきれない一生つきまとうであろうほどの執着心を抱いているのだ。三井は決して千尋と一緒に幸せになりたいとか、千尋を自分のものにしたいとかいう気持ちは持ってない。ただ千尋が幸せな毎日を送ってくれることだけを願っているのだ。
しかし、自分では幸せにしてあげることができない、だからこそ千尋を夫から虐げられた日々から救い出すことができないのだ。千尋のためなら何でもできてしまう三井が思う、千尋の幸せな毎日の中には自分の姿は見えないことがはっきりとわかっているからである。
三井のストーカー行為の裏にある本当の願いはあまりにもまっすぐな純愛であるが故に、感情移入できてしまう男性も多いのではないだろうか。初恋の女性が今どんな生活を送っているのか、気になりつつも、彼女自身が幸せであることを願うというのは、初めて自分に恋愛を教えてくれた女性に対する敬意として誰しもが抱いている感情のように思われる。
アンダーユアベッド
ベッドの下で好きな人を盗聴し監視する話。R18の暴力シーンはリアルで苦しかったです。
人を幸せにする方法が分からないから歪な愛をいつの間にか注いでしまう高良健吾は愛しくて、私から見ると純愛でしかありませんでした。オススメです。 pic.twitter.com/xUTd6hEGTg— 小島ビスケ (@bisuke_kojima) August 4, 2019
女性は千尋(西川可奈子)に感情移入
優しく明るい性格だった千尋は20代半ばで年上の男性と結婚という、将来家庭に入ることを望む女性ならば理想とするような道を歩んでいた。しかし、三井がやっと見つけることのできた数年後の千尋からは当時の面影はまるで失われており、疲れ果てていた。幸せとは程遠い、夫からの暴力と、誰からも支えを得ることのできない育児だけの生活に絶望感しか抱いていなかった。
夫からの暴力の描写があまりにも悲惨すぎて、観客がざわつきを見せるシーンも多々あった。ここまでの暴力を受けていれば、警察に相談や家を出るなど、様々な逃げ道を考えつくように思われるだろうが、夫からの独裁家庭にもはやマインドコントロールされてしまっているような状況なのだ。
女性ならば愛する人のために何でもしてあげたいと思うがあまり、誤った方向へと歩みを進めてしまったという実体験を持った人も少なくはない。そんな中で三井のような人物が現れたら、たしかに心の救いにはなるし、今の状況から逃げ出すきっかけを得ることができるだろう。しかし、三井と生涯を共にするという選択肢を選ぶことはない。女性だからこそ、三井の行動は単なる純愛が故の行動として正当化することは難しいと考えてしまう人が多いようだ。
ラストシーンのネタバレ!
映画では、夫に包丁を向けられ襲われそうになった千尋の叫び声を聞いた三井が夫をスタンガンで気絶させ、夫の首を絞めようとする千尋に代わって三井が夫を絞め殺し、自首をする。そして、それまでは三井のことを思い出していなかった千尋だったが、三井の経営する熱帯魚店の2階にある三井の自宅を訪ね、三井と一緒に自分が写っている大学時代の写真を見て、三井を思い出し、交番にいる三井のことを、後ろから名前で呼ぶ。「三井くん!」と呼ぶ千尋と、それを聞いて嬉しそうな三井の不器用な微笑みでラストを迎える。
原作との違いは?
本作の終わり方として、三井のことを千尋が思い出すのか、思い出さないのかという2パターンに大きく分けられる。映画では思い出すが、実は原作では思い出さないというラストを迎えていた。
原作では、三井が千尋を救うために夫を殺した後、三井は千尋に自分が大学時代の同級生であることを話すが、思い出してもらえない。そして、殺した夫は庭に埋め、二人で喫茶店に行き、三井のことを名前で呼ぶというラストを迎える。
原作と映画では全く異なったラストを迎えることから、終わり方に納得する人とできない人がいることは否めない。しかし、三井の自分の名前を呼ばれたいという欲望はどちらであっても満たされている。
個人的には、千尋が三井を思い出すということが、これまでの三井の千尋に対する一途な思いが数年越しで唯一報われた瞬間のように思われ、純愛ストーリーとしてラストを迎えた気持ちにさせてくれた映画版に一票を投じたい。
『アンダー・ユア・ベッド』まとめ
ストーカー行為をする者が主人公という衝撃的な設定だが、純愛が狂気に、狂気が純愛に変わる様をまじまじと観ることができる。ホラー×純愛という異色のコラボは人間の持つ愛と欲望の最果ての形を教えてくれるのではないだろうか。
高良健吾と西川可奈子というこれからの映画界を担う二人が共演の、まだまだロングランが期待される『アンダー・ユア・ベッド』、ぜひ劇場で新感覚の恐怖体験を味わっていただきたい。