おしゃれな画面に、アートな演出。ストーリーにピリッと皮肉の効いた風刺を盛り込んだジム・ジャームッシュ監督映画。そんな彼の作品のファンであるサブカル好きを、大胆に裏切ったと評判の映画『デッド・ドント・ダイ』。
何を思ったか、第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された本作。映画祭のオープニング作品だったこともあり、超目立っていたわけですが「あの監督が、ゾンビ映画を!?」なんてざわめきもそこそこに、上映後には会場が静まり返ってしまったそうで、賛否が真っ二つに別れた問題作でもあります。
本記事では、日本での再公開が待ち遠しい映画『デッド・ドント・ダイ』のストーリーをラストのネタバレ付きでご紹介!また、国内の映画館が閉館する前に鑑賞した方々から、かなり酷評を浴びている今作。そこで、三度の飯よりゾンビが好きな筆者が、本作の楽しみ方をお伝えしていきます!
結論からいうと、「怒んないで!」それに尽きます……!
映画『デッド・ドント・ダイ』の予告!
鬼才と呼ばれ、知る人ぞ知る映画監督、ジム・ジャームッシュの最新作として早くから注目を集めていた『デッド・ドント・ダイ』。
予告を見ればお気づきかもしれませんが、「知った顔ばっかり!」。ジム・ジャームッシュ監督のキャリアに縁ある俳優陣、錚々たる豪華キャストを集結させて撮ったのが「ゾンビコメディ」というのですから、ごちそうさまです!
ジム・ジャームッシュ監督のゾンビ哲学に置いてけぼり!
映画『デッド・ドント・ダイ』をご紹介するために、前置きしておきたいのが、今作は “ゾンビの始祖”と言われるジョージ・A・ロメロ監督のゾンビ映画への、オマージュ作品であるということ。
ジョージ・A・ロメロが監督したゾンビ映画には、必ず世間を皮肉ったメッセージが込められています。そこへ持ってきて、ジム・ジャームッシュ。観客を置いてけぼりにする独自の哲学を、作品にぶち込んでくることで知られています。
本作の評判で頻繁に見かけた「嫌味っぽい」「悪趣味」「やけクソな展開」「ふざけすぎ」といった酷評は、監督 “独自”のゾンビ哲学に置いてけぼりを食ってしまった方の、悲しみの声に他ありません。「すげえ楽しみに観たのに、なんなんだよ!」と。つまり、誰も悪くない!
意地でも走らない 墓から出てくる正統派ゾンビ
近年のゾンビ映画の定番といえば、未知のウィルスや宇宙からの侵略によるゾンビ発生!という展開ですよね。あと、最近のゾンビは無茶苦茶速く走ります。
この「ゾンビの加速」とか、また「噛まれるとゾンビ化する」などの設定はゾンビゲームの流行や、エンタメ性を高めるために後から付け加えられたものです。そんな、舗装されたワクワクゾンビロードにすっかり慣れてしまったわたしたち現代人。これから紹介する『デッド・ドント・ダイ』のノロノロ動くゾンビ、しかもコントみたいに墓から出てくる彼らに「物足りなさ」を感じる方も少なくないでしょう。
例えるなら、「白いご飯には、比内地鶏の卵黄!」「博多の明太子!」「トリュフ塩もなかなか……」というところに、いきなり鰹節ご飯をテーン!と出されたような衝撃。「今時、鰹節ご飯!?」「バカにしてんのか!!」。食べてみましょう、鰹節ご飯!落ち着いて食べれば、きっと美味しいですから……!
映画『デッド・ドント・ダイ』は何を皮肉っているのか?
「映画に込められた哲学」と聞くと、私たちは条件反射的に姿勢を正してしまうもの。映画『デッド・ドント・ダイ』では、スターギル・シンプソンが本作のために主題歌を書き下ろしています。いちいち豪華で笑えてきますね。映画通り『The Dead Don’t Die』というタイトルのこの曲は、劇中なんども流れます。
この主題歌の歌詞が、本作のテーマの大きなヒントになっていて……。
デッド・ドント・ダイ面白い!!
監督のコメントにある「ゾンビはお互いへの思いやりや意識を失うことへのメタファー」って、まさに今のコロナ状況下で浮き彫りになってる現代人の姿じゃん。。
日本公開延期になってるけど、今まさに観て欲しい作品。オンライン配信しないかな。#デッドドントダイ pic.twitter.com/5xwsqYzEHz
— からあげ (@karaaaa00) April 18, 2020
映画『デッド・ドント・ダイ』の登場人物とキャストを紹介!
おふざけ映画にしてはキャストが豪華すぎる、映画『デッド・ドント・ダイ』。同窓会映画と言われるほど、監督の過去作に出演した俳優をかき集めた、本作のキャストを紹介していきます!
これだけのメンバーで豪華にふざけられるのも、監督の人望だと思うんですよね。
冷静沈着な巡査 “ロニー”(アダム・ドライバー)
「カイロ、こんなとこで何してんだ!」という声が聞こえてきそう。田舎町の巡査の一人・ロニー役にアダム・ドライバー。冷静沈着な若手巡査を演じます。
代表作は、言わずと知れた『スターウォーズ(続三部作)』、『パターソン』『マリッジ・ストーリー』などなど。
ベテラン保安官 “クリフ”(ビル・マーレイ)
「ゴースト・バスターズ」と似たような服を着せられた、ビル・マーレイ。アダムと同じく、街の警官役を演じます。
代表作はありすぎて、何でしょう……『恋はデ・ジャ・ブ』『ロスト・イン・トランスレーション』などが有名ですよね。
街にやってきた謎の葬儀屋 “ゼルダ”(ティルダ・スウィントン)
ティルダ・スウィントンが、演じるのは「謎の葬儀屋」!ゾンビ映画で日本刀を操り、怪しい呪術を使うという、この訳のわからなさ。
『フィクサー』『ドクター・ストレンジ』『コンスタンティン』……『アベンジャーズ』にも出てましたね!
『デッド・ドント・ダイ』・・・・・ティルダ・スウィントンが日本刀を振り回してゾンビをぶった切る葬儀屋!って最高じゃないですか? pic.twitter.com/htNoLCFFo0
— en2019 (@en2019) April 18, 2020
町唯一の女性警官 “ミンディ”(クロエ・セヴィニー)
町唯一の女性警官に、クロエ・セヴィニー!パニックになりがちなミンディ巡査を演じます。常に猟銃を抱えています。美人要素を完全に封印されたメガネキャラです。
モデルやデザイナーとしても活躍しながら、『ブロークン・フラワーズ』『ボーイズ・ドント・クライ』など、多数の映画に出演しています。
イギー・ポップ、セレーナ・ゴメス級がチョビチョビ出てくる!
今作『デッド・ドント・ダイ』には、他にもゾンビ役にイギー・ポップ(特殊メイクいらず!)やサラ・ドライバー!さらに、セレーナ・ゴメスもちゃっかり出てきます。
かなりすごいメンツでわちゃわちゃすること、伝わったでしょうか……!
以下、映画『デッド・ドント・ダイ』のネタバレ!
さて、豪華なキャストや、監督の哲学までご紹介したところで、いよいよ映画『デッド・ドント・ダイ』のストーリーのネタバレに移っていきましょう!
非常にめちゃくちゃなあらすじの今作。次々と張られる伏線を、堂々と放置していくスタイルをお楽しみください!
平和な田舎町で続発する異常現象……。
作品の舞台はアメリカの田舎町、センターヴィル。
署長であるクリフ(ビル・マーレイ)は、部下のロニー(アダム・ドライバー)と共に、今日も平和な町のパトロールです。たまの事件といえばニワトリの捜索とか、そんなもん。
ただ、最近おかしいんです。例えば、ロニーのスマホが突然壊れたり、夜8時になっても日が沈まなかったり……。ニワトリの失踪も、なんだか最近多いんじゃない……?アメリカ極北で、大規模な開発をしているようですが、もしかしてその影響でしょうか……?
ダイナーで発見された変死体!
平和な街に変化が訪れていた、そんな時、町のダイナーで女性ウエイトレスの変死体が見つかります!遺体は内臓を食いちぎられていて、明らかに街に不釣り合いな物騒さ。
「えぇ〜困ったな〜」という感じで、クリフたちは街のパトロールを強化します。この辺りのパトロールシーンは「映画祭かよ!」というくらい、盛り沢山なキャスティング。
墓地に妙な形跡が……不安的中!
パトロール中の二人、墓地で見つけてしまいます。“何かが這い上がった形跡”を。
「ゾンビだったりして〜」ハイ正解!無限に湧き出てくるゾンビは町の住民に噛みつきまくり!クリフとロニーはゾンビの頭を狙って、ナタや拳銃で応戦します。しかし、ゾンビ減らない!
町にもう一人いる警察官と合流すべく、二人はパトカーに乗り込みます。
コントか!?その通り!
二人の会話の一部……。「この先バットエンドになるぜ……」「なんで知ってるんだ?」「だって脚本を読んだから」
こういう演出が多々あるのですが、みんなレビューで怒ってましたね!世界観をあえてぶち壊すスタイル、いわば瞑想中に突然くすぐられるようなものですから、頭にきて当然。でも、監督はくすぐりたかった!つまり、誰も悪くない!
謎の葬儀屋・ゼルダが怪しい……!
同僚のミンディと合流したクリフたち。町の警察官はこの3人だけです。ゾンビについての情報を、ダイナーで集める警官たち。すると、最近町にやってきたばかりの葬儀屋が、変なやつであるという情報が。
葬儀屋・ゼルダか……!怪しいぜ!
翌朝のダイナーに死体の山が!!
翌朝、警官たちがダイナーで見つけたのは、死体の山!ゾンビの仕業だと確信した彼らは、墓地に向かいます。
パトカーエンスト!そして誰もいなくなった
墓地の近くでエンストするパトカー!ゾンビに囲まれるパトカー!
3人の中で一番臆病な女性警官ミンディが、パニックを起こしゾンビの大群へ飛び込んでしまいます。ミンディを見送るロニーは一言。「台本通りだ!」
そこに突然、UFO出現!墓地に着陸します。UFOに引き寄せられるゾンビたち。いつの間にかその場にいた葬儀屋・ゼルダもUFOに引き寄せられます。
よくわからんが、ミンディの仇!と、パトカーから降りゾンビたちを攻撃するクリフとロニー。ゾンビと戦いながらロニーは叫びます。「これも台本通りだ!」
結局、ゾンビたちに数で負けたクリフとロニー。林の陰からこっそり様子を見ていた金物屋のボブが「なんて酷い」とつぶやきます。
映画『デッド・ドント・ダイ』を観て笑えるあなたでいて……!
「大規模開発は!?」「謎の葬儀屋は!?」「UFOは!?」「は!?」日頃から優れた脚本に囲まれて、伏線回収に取り憑かれたわたしたち。「伏線も回収しないで何ふざけてんだ!」というクレームが随所で見られます。
本記事では、映画『デッド・ドント・ダイ』を紛れもなく推しました。しかし、哲学が盛り込まれているからといって、映画の良さがわからないといけない!という訳ではないこと。つまり巷に溢れる「この作品の良さがわからないなんて〜」という茶番。これを筆者は丸めてポイしたく思います。
でなければ、ここまで出演者が真面目におおふざけした意味がないから。
新作ゾンビ映画「デッド・ドント・ダイ」はゾンビが生前の記憶に執着し生きてるときと同じことをしようとするらしい。例えば酒が好きなら飲み屋に行ったり。これを園芸と考えると家の草に水やったり、ヤフオク見たりするから人を食わずに済むかもしれないからみんな草やるべき pic.twitter.com/q3eKhnOq6W
— パンゲラゴ山 (@pleios) April 11, 2020
今作のゾンビの特徴は、「生前の記憶に従って彷徨う」というところ。ゾンビになってもキャンディを買いに雑貨屋に行く子供、iPhoneを離さずSiriに語りかけるゾンビ……。ものに取り憑かれ、周囲に気を配らなくなった人々の姿を風刺しています。
新型コロナの影響で日本中、世界中が怒りに満ちています。ジャームッシュ監督は「ゾンビは社会秩序の外ではなく、崩壊しつつある社会秩序の内側から来る」と語っています。このご時世、私たちが最も注意深く拒まなければならない「ゾンビ」とは一体なんでしょうか?