劇団・□字ックによる舞台『タイトル、拒絶』は、それぞれの事情を抱えたデリヘル嬢たちの物語。劇団の主宰である山田佳奈がメガホンを取り、フィルム化した映画『タイトル、拒絶』は、昨年2019年の東京国際映画祭に“日本映画スプラッシュ部門”に選出されました。
本記事では、映画『タイトル、拒絶』の見どころを軽いネタバレ付きで紹介していきます!
セックスワーカーの生き様といういかにもサブカルの香り漂う題材。舞台原作となればさらにとっつきにくく感じてしまう人もいるかもしれません。しかし女性であれば誰しも経験したことのある「女間での気まずいランクづけ」「意外とこういうことできないんだ、自分」みたいな“身に沁みる自己のダサさ”を炙り出した良作です。
映画『タイトル、拒絶』の予告動画がこちら!
現在ブレイク中の女優・伊藤沙莉が主演する本作『タイトル、拒絶』。大勢いるキャストのなかで彼女のキャスティングは一番に決まったといいます。伊藤沙莉さんなんて、いくらでも綺麗にできそうな素材。にも関わらず、この安ブラジャー姿。この辺りさすが女性監督というか、変なブラジャーつけるとこういう超イケてないシルエットになるんですよね。
本作のキーワードは“ウサギに憧れるタヌキ”。昔話『かちかち山』に出てくるウサギと、それに憧れるタヌキです。伊藤沙莉演じるカノウはタヌキ、ウサギな女性に憧れているのです。「若くて綺麗なんだから、ウサギらしく振る舞ってウサギになっちゃえばいいじゃん?」。そういう単純な話じゃないんですよね。なりきれるんならとっくになってるっつーの。
青春を引きずる成人3年生くらいの憂鬱、理想のとかけ離れた自分像に途方に暮れたことのある女性(あるいは男性も)決して少なくないのではないでしょうか。
映画『タイトル、拒絶』のキャストを紹介!
映画『タイトル、拒絶』が酒池肉林デリヘル物語ではない、と承知していただいたところで、本作のキャストをさらっと紹介していきます!
個性派女優を束にしたキャスティングの本作。ところが誰も女優然とせず、全体的に「普通に新宿にいそうな感じの女たち」に仕上げられているのは、彼女たちの日頃の観察眼の成せる技だと思うのです。
伊藤沙莉/デリヘルの世話係、主人公・カノウ役
先に少し紹介した主人公・カノウ、演じるのは若手実力派の伊藤沙莉です。本作の役を「誰にも渡したくなかった」と語る彼女。
カノウはデリヘルに体験入店した際、土壇場で「やっぱ無理」になってしまい逃げ出した経緯を持ちます。“逃げ出した”って「あの…やっぱり無理です、すみません(ペコリ)」じゃなくて。この子、客蹴り飛ばしてホテルの外にとび出して助けを求めていますからね。
その後、デリヘル嬢の世話役として落ち着いたカノウ。そんなトラウマワーク、世話役だとしても従事しなくてよくない?他の仕事探せば?って。体入でびびって逃げ出したお店で、あえて世話役として働く……。この一見矛盾したカノウの行動では、“ウサギに憧れるタヌキ像”がはっきりと表現されています。
日本映画を背負う若手俳優が勢揃い
カノウが世話するのは、彼女が「やっぱ無理」だったセックスワークをこなすデリヘル嬢たち。デリヘル嬢役には恒松祐里、佐津川愛美、片岡礼子、森田想、円井わんなど、名前だけ見ると知名度は低いかもしれませんが、脇役出演を重ねる実力派が揃います。
さらにデリヘルの店長役にラッパーの般若。突飛な配役という感じがしますが、般若は俳優としてのいかりや長介を敬愛しているのだそう。本作では“怪演”と言われ、評判上々です。
映画『タイトル、拒絶』の見どころを押さえる!
「わたしの人生なんてクソみたいなもんだと思うんですよね」。
自分の人生を“クソ”であると評するカノウ。彼女がデリヘル嬢の仕事をしようと思い立ち「やっぱ無理」ののち、世話係になるまでのエピソード。カノウを取り巻くデリヘル嬢たちの日常を描く『タイトル、拒絶』の見どころを、紹介していきます!
“濡れ場に期待”は廻れ右!登場するのは運転手のプリケツのみ
デリヘルが舞台の本作、性描写を極力なくす試みで撮影されたのだそう。そこには監督、主宰でもある山田佳奈さんの「より“人間の生き様”にスポットを当てるため」という意図があります。
強いて言えば、デリヘルの運転手が生ケツを見せる場面が最も際どいシーン……。運転手役を演じたのは、東海地方をメインに活動するアイドルグループ出身の俳優・田中俊介。アイドル時代から俳優志望だったという彼、山田監督にお尻の直談判をされた際には快諾した、というエピソードを製作発表で語っていました。
女性監督ならではの“女のランクづけ描写”が辛辣
デリヘルって、デリバリーですから店舗は事務所なんですよね。お客の目がないから、そこでは素の女性の姿が見られるわけです。体を売れる若さと、度胸がある女たち。男性からすれば好みなんかもあると思いますが、女同士だと相手の上から下までサッと見て“相手のランク”をはかる場面ってあると思うのです。
女であることを仕事にする彼女たちの環境は、常にお互いの価値のはかり合い。美醜はもちろん、客あしらいが上手な性格なんかは誰でも身につけられるものではないわけで……。何より売り上げが女としての順位を如実に伝える世界です。本作はこの辺りをかなり濃厚に描いていると感じます。そりゃ濡れ場を入れている暇はない、という印象。
“デリヘル嬢たちの物語” は “私たちの物語”でもある
この、“思い知る”感じ。筆者も昔、夜の仕事をした時に、容赦の無さを感じたクチです。俗にいう“おしゃクソ(お喋りクソ野郎の略)”であれば、表での接客にそこまで重圧は感じないのです(筆者はね)。ただ、やはりバックヤードの雰囲気は前述の通り。さながら「肉食獣が襲ってこないサバンナ」っていうんですかね。「ああ、アナタ水牛?アタシはジャッカルです。はいどうも、通りますね」って。いやもうむしろ喰ってくれれば気が楽なんだけどな!って……意味不明ですか?
筆者も生まれついての“タヌキ”なんだと、そう伝えたかったのです……。こういう場で“ウサギ”として輝いている子というのはね、それはもう眩しく見えるものなのですよ。
かなり分かりやすく「デリヘル嬢たちの社会」を描きつつ、世の女性たちが“ウサギ”たちに時折感じる“正体不明の羨望”にスポットが当たる本作。正体不明ですよ。自分がウサギと同じことをしても、無理があって苦しいだけなんですから。それなのに「いいなあ」って思ってしまう時があるのですからね……。
もしかして、この感情ってまだ名前がついていないんじゃないでしょうか?
映画『タイトル、拒絶』の見どころまとめ
- 自ら“タヌキ”を名乗る伊藤沙莉のカノウ。彼女の心境の変化に注目
- “捕食されないサバンナ”の容赦ない現実をリアルタッチで観られる
- 個性豊かなデリヘル嬢キャスト。テンプレ嬢ばかりでないのがセンス光る…!
- 山田監督の語る “イケてない女性の葛藤の美しさ”を群像劇で堪能
映画『タイトル、拒絶』の主人公・カノウは、デリヘルの入体を逃げ出すというなんとも描き甲斐のあるエピソードを背負っています。しかし本作のカノウ、嬢の世話役というポジション。実は彼女はセーフティーな位置にいるというか、容赦ないセックス産業の傍観者的な立場でもあります。
あえてカノウのフィルターを通すからこそ、個性豊かなデリヘル嬢の抱えるそれぞれの事情が生き生きと語られるのです。闇の深いナンバーワン嬢から、学生時代主席の優等生嬢、ブスで発言がおかしい地雷客の受け皿的嬢まで……。同じ店に所属し同じ仕事をこなし、カノウからすれば彼女たちみんな“ウサギ”です。しかし実際は、悩みもフェーズもそれぞれ全く違う女たち。
彼女たち(ウサギ)が力強くもがく姿、それを見たカノウ(タヌキ)は何を思うのでしょうか。