“仮想現実”と言えば、『マトリックス(1999)』『インセプション(2010)』『パプリカ(2006)』など、今ではかなり普遍的なSF映画のテーマですよね。
映画『トータル・リコール』は、アーノルド・シュワルツェネッガー主演で製作された1990年の作品。虚構と現実の境目が主人公にも、観る側にも判別つかない展開は先駆的で、公開当時かなり話題を集めました。
本記事では、映画『トータル・リコール』のあらすじをネタバレ付きでご紹介、さらに本作のエンディングの真の意図の解説もお届けしていきます!
映画『トータルリコール』の作品情報
ジャンル | SF、仮想現実 |
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公開日 | 1990年12月1日 |
監督 | ポール・バーホーベン |
キャスト | アーノルド・シュワルツェネッガー レイチェル・ティコティン シャロン・ストーン |
80年代前後のSF映画には、ほとんどと言っていいほどぶっ飛んだ原作小説が存在しますが、『トータル・リコール』も例に漏れません。原作はフィリップ・K・ディックの短編小説『追憶売ります』。小説に比べて映画はかなりパーティー的。映像が過激なんですよね。
共通するのは、自らのバックボーン、敵味方はおろか「自分が何者なのかわからない」という底なしの不安。映画版でもその恐怖は表現されていますが、小説版はもっと緻密です。
映画の雰囲気を大きく変えることになった要因の一つは、『トータル・リコール』の主演に筋肉ボムであるシュワルツェネッガーが起用されたということ。原作では小心者の会計士が主人公、内容は緻密で知的で不安が散りばめられていて、未来的で……。それなのに、シュワルツェネッガーのあのガタイ。本人の希望で、主人公の役作りは大幅に変更され、映画冒頭ではバキバキの上半身を披露しながら掘削機を軽々と操るシュワルツェネッガーが爆誕したのだそうです。
仮想現実というサイバー要素が詰まった作品ですが観てみると小難しくなく、パワフルさに押されて見せつけられてしまう。というのは決して筆者だけではないはず。
映画『トータルリコール』の作品概要
近未来、惑星間の往来が一般的になった未来。肉体労働者のクエイドは、美しい妻と二人で暮らしていた。ところがなぜか毎晩「火星の悪夢」を見続けるクエイド。
ある日、クエイドは“リコール社”が提供する、作り物の記憶を移植して体験することができる娯楽サービスを受けることに。体験中に身体に異変を感じるクエイド、プレイは中断されたが、その後正体不明の組織に命を奪われそうになる。
例の悪夢との関連に気がついたクエイド。全ての謎を解くために火星に向かう。
映画『トータルリコール』のあらすじをネタバレ
舞台は2084年、火星が地球の植民地になった未来。極端に少ない火星の酸素が原因で紛争が起きている世界です。
地球で妻・ローリーと暮らすクエイドは、毎晩火星の悪夢を見ることに悩まされていました。クエイドは火星に行ったこともない肉体労働者。「悪夢の意味を紐解くために火星にいきたい」と妻に話すクエイドでしたが、危険だからと妻はいつも反対するのでした。
「火星で悪と戦うスパイ」プランを選択
謎に近づきたい一心でクエイドはひっそり、記憶旅行を提供するリコール社のサービスを受けます。
「火星で悪と戦うスパイ」としての記憶を植え付けるプランを選択したクエイド。さらにブルネットの髪の美女をパートナーに選びます。
ところが、いざ施術というときに暴れ出すクエイド。医師によると彼の脳には、すでに火星の記憶が残されているというのです。しかしその記憶を何者かによって消されているとのこと。自分の悪夢は消された記憶の名残なのでは……?と考えたのも束の間、クエイドはリコール社に来店の記憶を消され、タクシーに放り込まれてしまいます。
リコール社も、面倒なトラブルはごめんなのです。
ローリーの口から恐ろしい真実が……。
訳もわからずタクシーを降りたクエイド。間髪入れずに同僚の作業員数人に突如襲われます。命を奪おうとする乱暴さ。さらに突然のことにも関わらず、彼らを軽々倒してしまうクエイド、自分にびっくりです。何がどうなってる?
不安と混乱の中、なんとか帰宅したクエイド。すると8年連れ添った妻・ローリーまでもがクエイドに襲いかかります。そしてローリーの口から恐ろしい真実が……。
「妻ではなくクエイドの監視役」。ローリーには本物の恋人もおり、消された記憶の存在に気がついた以上、クエイドを殺す必要があるというのです。それを聞いたクエイドは家から逃げ出します。
モニターの中の“自分と全く同じ顔の男”
ローリーと彼女の恋人・リクターに追われるクエイド。あるホテルに逃げ込んだ際に、謎の男から鞄を受け取ります。鞄を開けてみるとそこにはモニター、そしてモニターの中には自分と全く同じ顔の男が写っています。彼の名はハウザー。
画面のハウザーはクエイドと全く同じ顔で語り出します。「自分はスパイとして反乱分子たちに紛れ込んだ」「紛れ込んだ先の女性と恋に落ち、雇い主を裏切った」。続けて語るハウザー「反乱分子たちと共に、雇い主・コーヘイゲンがいる火星に行き、倒せ」。
夢か現実か、この判断は正しいか
火星に着いたクエイドは、その様子に驚きます。異常気象、スラムの実態。追ってきたリクターから逃げながら辿り着いたパブ“最後の楽園”も荒れ果てたスラム街の中にありました。
ハウザーが隠した伝言「最後の楽園でメリーナを指名して」に従い、メリーナを指名するクエイド。すると現れたのは、リコール社で選択したブルネットの髪の美女と全く同じ容姿の女性でした。メリーナはクエイドの例の悪夢にもたびたび登場する女性でした。実在する人物だったのです。
メリーナはクエイドを見るなり抱きつきますが、彼女の記憶がないクエイドは混乱。なんとか現状を伝えますが、不審がる彼女に追い出されてしまいます。ホテルに戻ったクエイドを待ち構えていたのは、ローリーとリコール社の社員。
「これはリコール社の提供した夢であり、君は火星にはいない」「夢から覚めるためにこの薬を飲むように」。虚構か現実か、選択を迫られたクエイドでしたが、リコール社の男の顔に汗が伝うのを見るなり“嘘”であると判断、彼を射殺します。
そこに助けに来たメリーナ、コーヘイゲンの工作員たちとの肉弾戦の末、クエイドは8年連れ添った(という記憶を植え付けられている)ローリーを射殺するのでした。
記憶の一部が復活したクエイド
メリーナの属する反乱分子のリーダー・クアトーと対面したクエイド。クアトーはミュータントで、特殊な能力を持っています。彼の能力により、記憶の一部が復活したクエイド。この争いの概要も思い出されます。
50万年前、火星に住むエイリアンが酸素を作り出す装置「リアクター」を開発しました。リアクターを稼働すれば火星の環境問題は解決されるにも関わらず、コーヘイゲンが存在を隠し、酸素の供給を独占していたというものでした。酸素不足に喘ぐスラムの人々も、リアクターさえ稼働できれば健やかに暮らせるはずなのです。
全ての状況を理解したクエイドでしたが、これまで協力的だったタクシー運転手・ベニーが陸ターに買収され、捕まってしまいます。元の雇い主・コーヘイゲンの元に連行されたクエイド。
クエイドとして生きる、火星も救う
コーヘイゲンは、反乱分子のリーダー・クアトーの居場所を探るために、ハウザーの記憶を消しクエイドという人間の記憶を植え付けたことを明かします。役目が終了したので、クエイドを自分の部下であるハウザーの人格に戻すのだ、と。
クエイドはこれまでの経験から、ハウザーではなくクエイドとして生きることを望みます。コーヘイゲンのもとから脱出したクエイドはメリーナと二人、リアクターを稼働するために走ります。
追ってくるベニー、リクター(!?)、コーヘイゲンを次々倒し、ついにリアクターを作動させた二人。火星の酸素不足は解消され、人々の不安は消し去られます。これからはたとえ貧くても酸素に困ることはありません。きっと作物も育つでしょう。
酸素濃度が上がり、真っ赤だった火星の空が青空に変わります。成し遂げたことに満足しながらも、「これも夢かもしれない」と呟くクエイド。傍らのメリーナとキスを交わします。
映画『トータルリコール』の幻のエンディング
どこまでが現実で、どこからが夢なのか……、結局最後までわからない描き方をしている『トータルリコール』。内容的にはサスペンス要素が強いのですが、キャラクターや情景のデザインが強烈すぎて、見ているうちに思考がぶっ飛んでいく方も少なくないのではないでしょうか。CGよりも、特殊メイク全盛の時代。アカデミー視覚効果賞受賞に輝いた本作の映画美術は現在でも語り種ですよね。この雰囲気はCGでは出せないと思います。
80年代ホラーの要素を引き継いだグロテスク感、さらに画面から飛び出してきそうなシュワちゃんの肉弾も相まってバイオレンスアクション全開。正直、誰が誰の味方で…とか考えなくても、なんとなく観て楽しめてしまうのが本作『トータルリコール』。すごく絵に癖がある漫画を勢いで読まされている感じに近い気がします。
「現実か夢か」二転三転する疑心
シュワちゃんが散々ピンチを切り抜けた後で「え、これ、夢……?」みたいなシーンをしょっちゅう入れてくるところは、観ている私たちもかなり揺さぶられる演出。
リクター(ローリーの真恋人)に「君は夢を見ている」と言われ、目覚め薬を渡されるシーン。リクターが汗をかいていることからクエイドの判断で射殺しましたが、映画の中で真相は語られません。
パブでメリーナが登場したシーンも「あの悪夢は現実に基づいたものだったんだ!」という解釈で映画は進んでいくようですが、もしかしたら単純にクエイドがリコール前に選択したパートナーが出てきただけかもしれません。見事にどっちともとれますよね。
火星に酸素を行き渡らせた後のラストシーンでは、シュワちゃんが思わせぶりなことを言いますし……。「ええ、やっぱり夢かもしれないの!?」って、清々しい気分だった鑑賞者を最後に混乱させて本作は終わります。
案の定、見る人によって「現実の戦い派」と「記憶旅行の話派」と、解釈は真っ二つ。
ラストシーンの“ホワイトアウト”に映画ファン悶絶
映画『トータル・リコール』は、ラストでクエイドが「これも夢かもしれない」と呟き、メリーナとキス、その後画面が真っ白に光ります。
この真っ白な光がホワイトアウト、夢から覚めた描写ではないかと言われています。
「あれは最後に画面が光るじゃん、だから夢だよ」。筆者の周りにも結構こういう派の人がいます。総じて「そんなことも気づかないのかよ〜」みたいな感じで言われるので、イラッとするのですが……、実は真相がきちんと明らかになっているのです。
『トータルリコール』日本語吹き替えビデオ版の幻のエンディング
実は、『トータルリコール』には、”幻のエンディング”が存在します。
劇場版、DVDでは本記事でネタバレしたラストなのですが、日本語吹き替えビデオ版では「リコールマシンに座っていたクエイドがにっこり笑って目覚める場面」が追加されているのだとか。しかも、エンドロールの後ですよ。最後まで完勝した人しか見られない、幻中の幻ですよね。
これは、本来予定されていたエンディングで、本編ではカットされたもの。つまり、クエイドは火星の危機を救った夢を見ていた、ということなのです。
クエイドが序盤にリコール社で意識を失うところまでが現実、暴れたあとタクシーに放り込まれるのはもう”夢”の話なのです!
『トータルリコール』監督の真意とは?
さらにショッキングな設定が、ポール・バーホーベン監督によって語られています。彼によれば「映画内のストーリーはすべてプログラムした”夢”。クエイドは最後に目覚めるが、強い体験によって脳は壊れていた」と……。
夢オチでにっこり笑っているだけであればまだ許せますが、脳が壊れていただなんて!
例え夢でも「クエイドはおうちに帰ってまたローリーと暮らせるな」なんて思っていたので、筆者ショック。
南アフリカのスラムを舞台にした映画『ツォツィ』のDVDでも、本編のベターエンドの他に“別エンディング”が収録されていたのですが……。これが類を見ないジメジメのバッドエンドで「おい、さっきの感動返してくれよ」ってなったのを思い出しました。
終わりよければ…という言葉がありますが、エンディングによって後感は大きく変わりますよね。
映画『トータルリコール』のストーリーまとめ
- 肉体労働者のクエイドは毎晩「火星の悪夢」を見続ける
- “リコール社”が提供する作り物の記憶を移植するシステムを体験するクエイド
- 体験中に身体に異変を感じ、機械は緊急停止、目覚めるクエイド
- その後正体不明の組織に命を奪われそうになる
- 酸素を作り出す装置「リアクター」を稼働させ火星の危機を救う。
- でも、全て夢かもね。