映画『CURED/キュアード』の斬新な視点!”元ゾンビ”への激しい差別を生々しく描く

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1968年。ジョージ・A・ロメロ監督が、映画『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』ではじめて、”ゾンビ”という概念を世に放ちます。それから50年。ゾンビは根強い人気を保ちながらあらゆるジャンルの映画、漫画、ゲームのモチーフに据えられてきました。

ゾンビ映画において「ゾンビは人を襲い、襲われた人もゾンビになる」という設定は、いわば鉄板として守られてきたルール。しかしここにきて、「もしゾンビが”治ったら”」「”元ゾンビ”がゾンビの頃の記憶を持ったまま社会生活に戻ったら」という、新たな視点を持った映画が公開されることになりました。

パンデミックの終焉後、元ゾンビが社会復帰した世界を描く映画『CURED/キュアード』

時期を狙ってかはわかりませんが、コロナウイルスの影響で世界中が疑心暗鬼に陥っているこのタイミングで公開される今作。ただのワニワニパニックで終わらない、鋭い問題提起映画であるともっぱらの評判なのです。

キュアードポスター

出典:IMDb

映画『CURED/キュアード』の概要

エレンペイジの後ろ姿

出典:IMDb

本作で描かれるのは、”ゾンビ・パンデミック”収束後の世界。
監督はアイルランド出身の新人デイヴィッド・フレインが務め、「ゾンビ映画」というジャンルではあるものの”ゾンビの治療法”が確立したおかげで回復した元感染者の社会復帰にスポットが当たる作品です。

日頃ゾンビ映画では、ゾンビになったらアウト。『ウォーキング・デッド』然り『新感染』然り、どんなに魅力的な登場人物でも、終盤に仲間を庇って手のひらなんかを噛まれたら即退場ですよね。

それに比べて「治るんならいいじゃーん!」と、一見平和な世界ですが、みなさん実際どうですか?
例えば、先月までゾンビだった人と、机並べて働けますか……?

ゾンビ映画での新しい概念「元ゾンビ(回復者)」

映画『CURED/キュアード』で、ゾンビ治療を終えた”回復者”たち。
あまりに新しい概念なので、彼らについて少し説明したいと思います。

彼らのゾンビ時代は、一般的なゾンビの価値観同様。つまりゾンビウイルスに冒され、人を噛み殺すゾンビに豹変、噛まれた人間にもどんどん感染は広がっていくというもの。

しかし治療法が確立したことで彼らは回復、「人間に戻る」ことになります。
ただ回復者たち、ゾンビだった頃の記憶はしっかりと残っているのです。そんな彼らを持ち受けているのはPTSD。人としての理性が回復したことで、ゾンビ時代の罪悪感と悪夢に苦しむ日々を余儀なくされます。

ここまでの状況から言えば、元ゾンビたちは完全にパンデミックの”被害者”でしょう。そうですよね?

映画『CURED/キュアード』の作品情報

エレン・ペイジ

出典:IMDb

  • 公開:2020年3月20日(日本)
  • 監督:デイヴィッド・フレイン
  • 脚本:デイヴィッド・フレイン
  • 上映時間:95分
  • 制作:アイルランド・フランス
  • 配給:キノフィルムズ

主演は2006年に映画『JUNO』で16歳の妊婦を演じたエレン・ペイジ。
その後は『インセプション』や『アンブレラ・アカデミー』など映画やドラマの人気作に次々出演し、今ではすっかり複雑な問題を背負った繊細な役がぴったりはまる女優さんになりました。

本作ではプロデュースも兼任しているエレン。作中では夫をゾンビに殺され、”回復者”である義弟を援助することになったシングルマザーを演じます。当て書きかと思うくらい彼女にぴったりな、複雑な役どころです……!

映画『CURED/キュアード』のあらすじ

キュアード父と息子

出典:IMDb

舞台は、人をゾンビ化させる病原体”メイズ・ウイルス”のパンデミックが起こったアイルランド。数年の混乱の後、ゾンビの治療法が発見されたことで街は秩序を取り戻しつつありました。

そこに”ゾンビが治った”元感染者たちが、”回復者”として社会復帰をすることになります。
回復者の青年セナンは義姉のもとに身を寄せ、ゾンビ時代の記憶を割り切れないまま(当然ですよね)ひっそりと暮らしていました。

しかし、街では回復者を受け入れない市民たちによる抗議デモが盛んに行われ、元ゾンビを社会から排除する動きが過激さを増していました。自身もゾンビ時代のPTSDに苦しみながら、外に出れば市民たちに激しく差別される。どこにも行き場のない回復者たち。彼らに蓄積した社会に向けてのヘイトは、”復讐テロ”という形で実行されることになるのです……。

元ゾンビとの共存は困難?差別にも苦しむ回復者たち

パンデミック後の荒涼した世界を舞台にした映画は『アイ・アム・レジェンド』や『28日後…』など、いくつかあります。しかしいずれも、物資もなくゾンビの残党も残る「荒れた世界でどのように生き延びるか」という”究極のサバイバル”をベースにした作品でした。

映画『CURED/キュアード』は、元ゾンビというレッテルを貼られたまま社会に放り出された人間と、それを拒絶する人々との”恐れ合い”。恐れ合いが増長して、憎しみ合いに発展していくという今までのゾンビ映画にない展開が見どころです。

映画『CURED/キュアード』は社会を痛烈に風刺した新感覚ゾンビ映画!

シングルマザーのエレン

出典:IMDb

さて今作の構図、さながら人種差別や移民問題など、現代社会が抱えている不穏な状況を反映していますよね。

最近ではコロナウイルスの流行に伴い、アジア人であるというだけで海外旅行先で差別を受けたというエピソードも耳にするようになりました。個人で行なっていた防衛が数を成し、結託し、過激化することでいつしか差別や排除が生まれます。

自分たちが差別された時、人は大きな衝撃を受けます。でももしかしたら、気付かないところで差別者になったことだってあるかもしれません。そのくらい、する側とされる側の重圧に溝があるのが差別意識ではないでしょうか。

映画『CURED/キュアード』は、行き場を失った”差別被害者の苦悩”に焦点を当てることで、私たち鑑賞者を差別者側の席に座らせます。そして、人間性を失わない正しい防衛とは一体何か?という問いかけを突きつけてくるのです。

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