『フォックス・キャッチャー』オリンピックで起きた殺人事件の真相とは!?

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・概要

2015年公開
ベネット・ミラー監督作品『フォックス・キャッチャー』は
1984年に実際に起きた『五輪金メダリスト殺人事件』という事件が元になったお話です。
アカデミー賞5部門にノミネートされています。

監督: ベネット・ミラー
上映時間:135分
主演:スティーヴ・カレル/チャニング・テイタム/マーク・ラファロ


出典元:https://www.imdb.com/title/tt1454468/mediaviewer/rm1306032896

・あらすじ


出典元:https://www.imdb.com/title/tt1454468/mediaviewer/rm1306032896

1984年のロサンゼルスオリンピック。

レスリングで金メダルを獲得した『マーク・シュルツ』は
デュポン財閥の御曹司である『ジョン・デュポン』から
レスリングチーム「フォックスキャッチャー」に来ないかという誘いを受ける。

その申し出を受けるマークだったが、
デュポンは自分が指導者としてオリンピックのコーチ席に入ることに固執し、
しばらくしてマークの兄で優秀なコーチでもある金メダリストのデイヴを呼び寄せた。
兄が来たために立場を失ったマークは、精神的に不安定になっていった。

デュポンは全米レスリング協会に多額の寄付をし、
フォックスキャッチャーを五輪代表チームの公式練習場として認めさせていったが
デイヴは内心ではデュポンが自分の上に立つコーチだとは認めていなかった。
ソウル五輪でマークは敗退し、フォックスキャッチャーを去った。

デュポンはコーチとして全くデイブに及ばなかった。
デイブはその後もデュポンのもとでコーチを続けた。
ある冬の日、デイヴは妻の目の前でデュポンに射殺された。
逮捕されたデュポンは2010年に獄中で病死した。

タイトルにもなっている『フォックスキャッチャー』はレスリングチームの名前ですが
イギリスの貴族が過去にキツネ狩りを娯楽としていた事にあやかって名付けられたものです。

あらすじを見て頂ければ分かる通りとても陰惨な事件で
主演の『マーク・シュルツ』役であるチャイニング・テイタムも
『なぜこんな話を映画にするんですか?全く救われないしどうにもならない話じゃないか』
と監督に言ったそうです。

何故、雇い主が雇ったはずのコーチを殺害する必要があったのか。
一見、動機がよく分からない理解不能な殺人事件の様に見えますが、
映画を通して観てみると、三角関係というか主要人物3人の微妙なすれ違いが積み重なった末
溜め込んだものが最悪の形として出てしまった事件だという事が分かります。
(一応、今回の紹介では伏せておきます。)

・登場人物

主要登場人物となる3人の俳優が
パブリックイメージを覆す役柄を演じているのでそれぞれの演技も見所になっています。

『マーク・シュルツ』


出典元:https://www.imdb.com/title/tt4633694/mediaviewer/rm532134618

レスリングの金メダリストですが特訓ばかりの人生であった為、
格闘技やプロレス以外に楽しみや喜びを感じる娯楽に触れたことがほとんどない男で、
ひたすら練習に明け暮れています。
体を作らなければならないのにお金がないので肉を食べられなかったり、
1人でまずそうにしながらファストフードを食べたりカップラーメンをすする姿が印象的です。
(その反動か劇中ではマリファナを覚えてしまい、ずるずると泥沼にハマってしまう様子も描かれています。)

また、マークは兄であるデイヴとは対照的に人づき合いも上手くなく、統合失調症を患っており
コーチの依頼も兄の方にばかり行くのでメダル獲得後は職に苦労している様子が見受けられます。

演じるチャイニング・テイタムはこれまで陽気なマッチョの役が多く、
テイタムにとって今回の様な役はかなりイメージとかけ離れた役です。
(こういった『ストイックで根暗なマッチョ』 はアメリカには実は割とたくさんいるそうです。)

『デイヴ・シュルツ』


出典元:https://www.imdb.com/title/tt4633694/mediaviewer/rm56245612

マークの兄で同じく金メダリストであり、人当たりが良く温厚で人望の厚い人物です。

コーチとしての指導力もあり弟を気遣ったり、
家族サービスも怠らない社会的にとても『正しい人』 なのですが
彼の存在が弟がふさぎ込みやすい原因になっていたりします。
また、彼も贅沢な暮らしをしてるわけでもなくつつましい生活をしています。
当時のアマレス界はコーチをやる以外に生活の道がないので苦労している点ではマークと変わりません。

デイヴを演じるマーク・ラファロはマーベル映画のハルク(ブルース・バナー)役などで有名です。
たくさんの映画に出演されていますが特にこの映画では同じ人とは思えない役作りをしています。


出典元:https://www.imdb.com/title/tt4633694/mediaviewer/rm391581514

『ジョン・デュポン』

出典元:https://www.imdb.com/title/tt4633694/mediaviewer/rm524965453

テフロン加工などで知られるデュポン財閥の御曹司で
そろそろ60歳に差し掛かる年齢なのですが
あまりにも裕福な家庭に生まれた為に
働かずとも、常にお金が有り余っていて現在は株だけで生活しているので
暇を持て余して敷地の中で自分専用の装甲車を買って乗り回しているような変人です。

逆に言えば、お金以外は何一つ持っていない人で
過去に母親がお金で友達を買収している様子を見てしまってからは
『自分の力で何も成しえた事がない』というコンプレックスに苛まれています。
すごく高い地位の人間にも関わらず長年の鬱屈もあってか
常に死んだ目で淡々としている印象があり、あまり威厳を感じられません。

実は八百長試合でしかレスリングの優勝経験はないので選手からも尊敬されていません。
『レスリングは下品』と言い放つ母親に、レスリングを認めさせたい一心で
自分の力で一からレスリングチーム『フォックス・キャッチャー』を立ち上げたはいいものの
チームの創始者である自分を褒め称えるビデオを作り
選手たちに台本を用意して『デュポンは人生の師だ。』と言わせたりしています。

演じるスティーヴ・カレルは
元々コメディアン出身で役作りにあたって声色を変えたり特殊メイクで鼻の形を変えています。
(映画の元になった人物を検索してみるとかなりそっくりです。)

デュポンはコーチの依頼をマークに申請してマークとは信頼関係を築いたものの、
指導の経験が浅く、高待遇に浮かれているマークに愛想をつかして
「恩知らず」と罵倒し、兄のデイヴにコーチを依頼し直します。
しかし、自作のビデオを観賞した際に
自分を本当に心から慕ってくれて『人生の師だ。』と言ってくれたのは
裏切ったマークだけだったと1人静かに気付く場面があります。

そのシーンでは彼の部屋に八百長のトロフィーや嘘だらけのビデオなど
膨れ上がったエゴの象徴ばかりが映し出されています。


出典元:https://www.imdb.com/title/tt4633694/mediaviewer/rm6099122043

・フォックスキャッチャーの魅力

このように全編を通して、
周囲への『承認欲求』や成功への『強迫観念』をこじらせて
溜まりに溜まった『鬱屈』という言葉がよく似合うお話になっていて
成功者のサクセスストーリーをドラマの様にヒロイックなフィルターが掛かっていない状態で見てしまったような気まずさがあります。

社会的な『成功者』と聞くと我々は順風満帆な人生だろうと勝手に思い描いてしまいますが、
金メダリストを獲得した『その後』に
アスリートに厳しい現実が待ち受けている事に目を向ける人はあまりいないんじゃないかと思います。

シュルツ兄弟はそろって金メダルを保持している『勝利の象徴』であり、
『マッチョイズム』 『アメリカンドリーム』を体現した男たちのはずなのに
アメリカですらその夢想が通じなくなってしまった事を訴えた映画にもなっています。

大富豪と金メダリスト達の話にも関わらず言いようのない閉塞感が漂っており、
彼らのまとう空気に華やかさは全くありません。
ですが、本作は実はとてもブラックなユーモアに溢れたコメディシーンがたくさんあります。

ある日、デュポンが練習の様子を見学に来た母親にいいところをみせようとして
今まで一度もやったことがないレスリングの指導を取ってつけたように唐突にやり始めて
その場にいる全員から『何だコイツ』という白い目で見られ、
母親にも見透かされて飽きれて帰られてしまうという場面があります。
このシーンは客観的に見れば滑稽なコメディとも受け取れる場面ですが
劇中では主観的でとても痛々しく描かれています。


出典元:https://www.imdb.com/title/tt4633694/mediaviewer/rm6099122043

チャップリンの格言で
『人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ』
という言葉がありますが、まさにその言葉を体現したシーンになっています。

例えば、公衆の面前で誰かがバナナの皮を踏んで派手にコケて周囲が爆笑しているシーンがあったとします。
一見、笑える場面の様に映りますが
コケている人間の顔をカメラが常にクローズアップで映していたとすると
尻をぶつけて苦痛にゆがんだ表情がどアップになり、周囲に嘲笑されているような絵面になってしまいます。

この様に『主観は悲劇』『客観は喜劇』というのが物語の基本としてあります。
本作『フォックスキャッチャー』は『正しさ』をつかもうとした人達の主観的なお話になります。

映画は基本的に客観的に物語を体感する娯楽ですが
その場の雰囲気に飲まれたり、やたらと肩書にこだわったりと
本来はどうでもいいはずの形のないものや感情に踊らされるのは、現実に住む我々の誰にでも当てはまる事なのではないでしょうか?

時として『栄光』や『人として正しいとされている事』の押しつけが
どれほど辛く、どれほど人を追い詰めるか描いた作品でもあります。

・まとめ

はっきり言ってエンターテイメント的な面白さはほとんど無く、地味で重く暗い映画です。

人は自分自身の事ですらよく分かっていないのに自分以外の人の考えや感情を完全に理解することは絶対に不可能ですが
例え理解できない考えを持った人物であっても
絶対に許しがたい事件を起こした人物であっても
意思の疎通が取れないと勝手に思い込んでいる人物であっても
物語という『フィクション』を通してならその人の気持ちや考えが分かる気がする。
というのがストーリーの素晴らしさであり、恐ろしさでもあり、人の『頭の中』に入ったような感覚こそ映画を観る事の醍醐味だと思います。

このような殺人犯側の心情に焦点を当てた映画は毛嫌いされる事も多いですが、むしろこういった映画こそ真に『観るべき』映画なのではないかと思います。


出典元:https://www.imdb.com/title/tt4633694/mediaviewer/rm6099122043

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