英国映画『家族を想うとき』ケン・ローチ監督が描いた貧困層の怒りの正体

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家族を想うとき

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019
© Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

ケン・ローチ監督は一度引退を決めたにもかかわらず「今のイギリス社会に対して物申す!」と復帰し、映画『家族を想うとき』を制作しました。宅配業者の夫と介護職の妻と二人の子供からなる4人家族の物語は一言でいえばしんどい!『家族を想うとき』は、格差社会の中で生きる家族のリアルなストーリーです。

『家族を想うとき』概要

『家族を想うとき』(2019年12月13日公開)
監督:ケン・ローチ
出演:クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター

あらすじ

「家族を想うとき」

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019
© Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

リッキー(クリス・ヒッチェン)はフランチャイズの宅配ドライバーとして仕事を始めることになりました。しかし、会社からトラックを借りるか、自分で買うかの選択を迫られ、彼は購入したいと家族に相談します。しかし、車を購入するためには、妻アビー(デビー・ハニーウッド)の車を売らなければなりません。介護職のアビーは遠い介護先へ行くのに車を使っていたので反対しましたが「1日14時間、週6日働けば2年でマイホームが買えるんだ」と説得され、しぶしぶ了解。バスで遠い介護先に働きに行くようになりました。しかし、個人事業主の宅配業者は、想像以上に厳しい仕事だったのです。

個人事業主として生活を維持する難しさ

「家族を想うとき」

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019
© Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

リッキーはトラック宅配業者として独立することで、前職以上にお金を稼いでマイホームを手に入れようとするけれど、世の中はそう甘くありません。休みなく宅配トラックで配達に明け暮れる毎日。横柄な客にイライラしたり、常に時間に追われて、心身ともに削られていくリッキー。そして、バスで遠方の介護者のもとへ行くことになったアビーは帰宅が遅くなり、子供たちに食事も作ってあげられません。二人の子供との会話もなくなり、家族はバラバラになってしまうのです。リッキーが楽観的過ぎたとも言えますが、体調崩して仕事を休んだら罰金なんて、雇い主はドライバーを人間扱いしていません。

「家族を想うとき」

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019
【作品コピーライト】© Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

ブラックな配達業者の高圧的な物言いは観ていてしんどく、日本でも宅配業者の厳しい現実が問題になっていることを思うと、「状況は一緒だな」と。成功する前に体が壊れてしまう、家族が壊れてしまう。でもやみくもに働かないと生活に窮してしまうという悪循環。富裕層と違い、貧困層はそういう毎日を必死に生きているのです。

購入かレンタルか。リッキーの決断は正しかったのか

「家族を想うとき」

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019
© Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

この家族の絆に亀裂が入った原因のひとつは、リッキーが宅配業者になるためにトラックを購入する決断をしたことです。アビーの車を売ろうと提案するリッキーにアビーは反対します。彼女の介護職の仕事は、呼ばれたら遠い場所にも行かなければならない。車がないとバス移動になり、遠方はバスの本数も少なく困難を極めることが目に見えていたからです。トラックは会社から借りることもできたのに、リッキーは自分の意見を押し通してしまいます。

「家族を想うとき」

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019
© Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

もしも、アビーの車を売らなかったら、リッキーの状況は同じでも、アビーは帰宅して子供たちのために食事を作ったり、会話したりできたでしょう。女性目線で見るとリッキーの強引な行動に「妻は夫に従うべき」「夫を優先すべき」という亭主関白な態度が見えます。『家族を想うとき』は、イギリス社会問題だけでなく、夫婦像もリアルに映し出しているのです。

ケン・ローチ監督作『わたしは、ダニエル・ブレイク』との共通点

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ケン・ローチ監督は、今のイギリスの現状に怒りを感じ、心の叫びを作品にぶつけています。前作『わたしは、ダニエル・ブレイク』では、心臓病を抱えて働けなくなった中年男性ダニエルと近所に住む若いシングルマザー、ケイティと子供たちが助け合って生きる姿を描いていました。と、同時に、イギリスの福祉制度が機能していないこともリアルに伝わってきます。生活に窮している人に対して、役所が無理難題を押し付けて、見放していく様は本当に腹立たしかった。助けようとせず、切り捨てようとしているからです。『家族を想うとき』は、主人公たちを追い込む相手が、前作の役所から宅配会社になっただけで、伝えたいことは同じ。「なぜ助けようとしないのだ」ということ。

「家族を想うとき」

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019
© Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

ただ希望となるのは、人と人との絆は必ず存在することです。『私はダニエル・ブレイク』のダニエルとケイティ、『家族を想うとき』のリッキーとその家族。人はひとりでは生きていけない。やはり助け合いは大事なのです。決して幸せな気持ちになる映画ではなく、逆に厳しい現実を突きつけられて「うっ!」と苦しかったりしますが、今こそ、観るべき作品だと思います。

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