「この人と生きる!」そう決めた人生の伴侶が、突然この世を去ってしまったら……。たった一人残された人間は、一体何を考えるでしょうか。寂しくて、後を追いたいと思うかもしれません。または、悔しい?怒りを感じる?新型肺炎の影響で、健康な人々も「死」を意識するご時世。自分の健康はもちろん、家族の健康についても考える機会が増えたのではないでしょうか。
もし、家族を突然失ったら?たった一人、呆然とするでしょうか。では、もし子供と二人残されたら、どう生きていけばいいのでしょう。ある日父と娘が突然家族を亡くした、”それから”を描いた映画『ステップ』。
本記事では、山田孝之主演、試写会満足度では92点を叩き出した映画『ステップ』のストーリーを、ネタバレ付きで紹介していきます!
映画『ステップ』の予告はこちら 1分20秒ですでに泣きそう!
山田孝之演じる「健一」は妻を亡くし、2歳半の娘をたった一人で育てて行くことになってしまいます。大切な人を失った喪失感。仕事に育児、目の回るようなとんでもなく忙しい日々でさえ、「妻を亡くした」という絶望をかき消してはくれません。
重松清「ステップ」読了。帯の「山田孝之で映画化」に惹かれて購入。シングルファザーになった主人公の子育てを中心に物語が展開していくがお涙頂戴に留まらず己の生き方ついて深く考えさせられる作品。とはいえ、やはりどうしても嗚咽してしまうので布団で読むのがオススメ。https://t.co/RIplt41DaJ pic.twitter.com/A1Al0N2RsT
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原作は重松清の小説『ステップ』。もともと雑誌に連載されていたこの原作、2013年に文庫化されて多くの読者の心を掴みました。
重松清といえば、小説『流星ワゴン』『とんび』などが代表作。穏やかな感動作が多く、映画・ドラマなど映像化率の高い小説家です。そのため、ファンからしてみれば「待望」とも言える、『ステップ』の映画化。
「泣かせる系の邦画か、別に好きでも嫌いでもないな〜」となんて思っていた筆者。オンライン試写の後、自分を恥じました。
そうなんです、「家族なら当たり前に使われる単語」。残された二人の親子にとって、当たり前が当たり前ではないわけですが、それでも明日は来るし、生きていかなければいけない。
「生きるためには努めて前向きでなければ!」と支え合う親子の姿を、気づけば全力で応援してしまいます。
映画『ステップ』の登場人物とキャストを紹介!
「ポロロ〜ン」と急に悲しい音楽を流したり、主人公が感極まって絶叫してみたり、いかにも「泣かすぜ!」と意気込んだ映画が嫌い!という方にぜひみていただきたい今作、『ステップ』。派手な演出なしに、育っていく親子の姿をここまでリアルに伝えられた理由は、キャストの実力以外の何ものでもないと思うのです……!
ストーリーのネタバレの前に、映画『ステップ』のキャストを紹介していきます!
妻を亡くしたシングルファーザー “武田健一”(山田孝之)
妻を髄膜炎で突然亡くしてしまったシングルファザーを、山田孝之が演じます。
『勇者ヨシヒコ』『ウシジマくん』『クローズZERO』、演技の幅の広さは言わずと知れていますが、最近クセの強い役が多かった印象。しかし、デビュー当時の『世界の中心で、愛をさけぶ』『白夜行』、マイナーですがNHKドラマの『六番目の小夜子』など……。実は純朴な演技でこそ本領発揮する俳優さんであることを、今作で再認識させてくれます。
山田孝之のあまりにリアル過ぎるシングルファザー役が見どころ!
山田孝之演じる、突然シングルファザーになってしまった健一。健一はこの時30歳、若いです。これから築くはずだった幸せが突如ぶち壊れたことへの、混乱。こうして内心途方にくれながらも、周囲に甘えるわけにはいかない、「男手一つの子育てにギブアップしたくない」という意地。
主演の山田孝之は、この窮地に立たされた若者のギリギリの心境をリアルに演じきっています。最初に紹介した予告編でも使われていましたが、「もう、ダメかもしれないな…」と呟きながら娘の美紀をお迎えに行くシーン。この、本当に経験したんじゃないかと思うほど切実さ。涙を流さず泣く、この心境を表現することは彼にしかできないな……と感じました。
原作の評価が非常高い『ステップ』ですが、主演の山田孝之の演技力がなければ、ここまでの感動作には仕上がらなかったかもしれません。
健一の愛娘 “武田美紀”(中野翠咲・白鳥玉季・田中里念)
今作『ステップ』は、残された親子の10年に渡る成長の物語。健一の娘・美紀も映画の中で2歳から12歳に成長します。
今作では、それぞれの年齢の美紀を中野翠咲、白鳥玉季、田中里念、三人の子役が演じ分けています。メインキャストの変化が2歳から12歳に及ぶというのは、今作の映像化が難しいと言われていた理由でもありました。筆者も、「子役の子達、結構顔が違うので無理があるのでは?」と鑑賞前は思ったのですが、意外と違和感はありませんでした。
どの子もみんな演技が上手ですし、顔つきが変わるのも、「父子家庭で支え合って聡明な子になったんだな」と納得させるのに十分な演出があるのでご安心を!
脇を固めるキャスト陣を紹介!
ちなみに今作『ステップ』では、「自然な演技」に定評のある俳優さんを集結させています。主人公の健一の行きつけのカフェ店員役に、川栄李奈。相手役とも言える健一の同僚には、広末涼子。保育士役で伊藤沙莉も出演しています。
また、物語のキーマンとなる義父を演じるのは國村 隼……。この安心感のあるキャスティングによって、まるでドキュメンタリー並みの自然さを可能にしているのです……!
映画『ステップ』のストーリーをネタバレ!
それではいよいよ、映画『ステップ』のストーリーをネタバレ付きで紹介していきます。
今作は、娘の美紀が保育園に入学、そして小学校を卒業するまでの10年間を追いかけた物語です。
最愛の妻・朋子を髄膜炎で亡くす健一……。
主人公・健一は、結婚3年目。最愛の妻と2歳半の娘を家族に持ち、トップセールスマンとして働いていました。
ところが、なんら不自由のない幸せから一転、最愛の妻・朋子は髄膜炎であっけなくこの世を去ります。悲しみに暮れるまも無く、一緒に残された小さな娘との二人きりの生活が始まるのです……。
時間に融通のききやすい総務部に異動する健一
これまで健一がプライドを持ってきた「トップセールスマン」という立場。この仕事、子育てと両立するのは難しいことでした。健一は、営業部から総務部に異動。育児のために時短勤務の許される部署を希望したのでした。
毎日申し訳なさそうに定時退社する健一。加えて、幾度となく保育園から呼び出しが……。次第に肩身が狭くなって、仕事を抱えてパンク。すると、保育園への迎えが遅れ……。泣き疲れて眠る美紀の顔を見て、健一の顔は辛そうに歪みます。
いや、この辺りのシーン、本当にキツイ。ほんとは自分だって泣きたいですよね。
義両親の協力にも心を開けない
ワンオペと言いつつ、健一と美紀の生活を積極的にバックアップしようとしてくれる人たちもいます。特に義両親、亡き妻・朋子の両親です。
しかし健一、なかなか心を開くことができません。子育てに悩むことがあっても、健一は一人で解決しようとして途方にくれます。これは彼の「妻を亡くして一人になった」という心の傷が、いかに深いかを思い知らされるシーンです。いくら親切にしてもらっても、「妻を亡くしたのは自分」「娘を育てなきゃならないのは自分」。
追い詰められると湧き上がってくる孤独感、誰にでも経験があると思います。配偶者と死別した健一の場合、この孤独感には終わりがないのです……。
妻・朋子の面影を探す健一。再婚を勧められるも……。
「男手一つ」という家庭の状況を知る周囲の人たちは、健一に再建を勧めます。
健一、「亡き妻一筋」といってこれを否定しますが、実は心の穴を埋めてくれる女性を求めています。そして、そんな風に周囲の女性を見る自分にまた、自己嫌悪……。
健一は異動した部署で出会った同僚の女性・奈々恵と親しくなります。
彼女は事故で息子を亡くしていて、さらに事故が原因で離婚したという過去を持っていました。「家族を失った」という共通の境遇から、健一と奈々恵の関係は進展していくのです。
美紀小学校高学年。父さんの幸せの手助けを
ここまで、父・健一の七転八倒。美紀の成長だけを励みに、がむしゃらに進んでいるように見えます。しかし、すでに美紀は小学校高学年。彼女はものすごく頼りになる聡明な女の子に成長していました。苦労する父親の背中が美紀を育てたと言っても良いでしょう。とにかくいい子。
そんな成長した美紀に、奈々恵を紹介する健一。美紀は奈々恵に気を使い、楽しそうにおしゃべりします。小学生ですよ?健一が連れてきた女性に適応して、お父さんを応援しようとする美紀の優しさが伝わります。
ようやく本当の意味での「再出発」を意識することができた健一は、義父とも打ち解けます。「君は俺の息子だ」と語る義父。健一を取り巻く環境は全て、健一次第だったわけです。
そして、健一、美紀、奈々恵の3人は、食卓で亡き妻・朋子の写真を囲むのです……。
義父・義母と打ち解ける健一しかし……
妻・朋子が亡くなった時から、健一と美紀を見守り続けてきた義父が倒れてしまいます。さらに、余命宣告。せっかく打ち解けたのに……。
義父は「これ以上悲しい思い出は増やして欲しくない」という理由から、美紀との最期の面会を拒みます。可愛い孫に、もう身内の死を見せたくない気持ち、義父の不器用な優しさです。しかし、健一は「悲しい思い出は美紀を優しい子に育ててくれる」と義父に伝え、面会を果たすのです。
病床で「美紀ちゃんがいてくれるのがいちばんの幸せだった」と美紀に語る義父。最後の別れです。小学生には……あまりに酷です。しかし美紀はこの経験で、自分が家族に深く愛されていることを知るのでした。
映画『ステップ』は残された人々のための物語
本作の見どころは、山田孝之演じる健一と美紀の「自然な親子感」。ストーリーに入り込めるのはこの自然さがあってこそ。大事件が勃発!とか、そういう波はあまりないのですが、実際の人生もそういうものじゃないですか?それでも悲しいことはやっぱり起きてしまうし、それでも人生は続いていきます。
劇的な事件で急成長!とかそういうズルなしで、長い時間をかけて朋子の死を乗り越えていくふたりの姿に心を打たれました。
うまくネタバレレビューできたでしょうか……。いずれにせよ、この温かい感情はきっと鑑賞して初めて得られるもの……!映画『ステップ』は、近日公開です!