新型コロナウイルスの流行の影響で、公開が延期になった映画『甘いお酒でうがい』。一度聞いたら頭に残る、上手なタイトルですよね。今作の主人公は、お笑いコンビ “シソンヌ”の「じろう」が持ちネタのコントで長い間演じてきたキャラクター「中年OL・川嶋佳子」。
「シソンヌ・じろうが川嶋佳子になりきり、彼女の日常を日記風に綴った原作小説」の映画化作品です。ちょっとややこしい成り立ちですが、つまり現在41歳の男性であるじろうによる、40代女性の熟女キャラの日記。しかも、とても想像で書いているとは思えないほど細やかで、共感性の高い原作小説の心象描写は、多くの読者の心を掴みました。
映画の『甘いお酒でうがい』も、じろう自身が脚本を執筆。シソンヌ・じろうや原作小説を知らない方は今作を謎に包まれた作品と思うかもしれません。
そこで本記事では、映画『甘いお酒でうがい』のストーリーのネタバレ、さらに今作が鑑賞者に伝えたいメッセージについて綴っていきます!
映画『甘いお酒でうがい』の予告動画がこちら
どうでしょう?予告をご覧になって、所謂「雰囲気映画」と思われますか?
今作の主演は松雪泰子。派遣社員として働く40代独身女性、川嶋佳子を演じます。松雪泰子といえば、幸薄げな美人というイメージから、悲しい役を演じることが多いですよね。つきまとう元夫を殺害してしまう役とか、虐待されていた教え子を誘拐して逃亡するとか。
そんな彼女が纏う雰囲気から、今作も大きな困難が待ち受けているのかと思いきや……。
川嶋佳子が毎日つけている日記。彼女がそこに書いているのは、「信号の待ち時間にヒールに体重がかかる時間が嫌い」とか(わかる!)、「前に撤去された自転車と再会して嬉しかった」など、生きていたら経験するけれど、あえて他人とはシェアすることのない日常なのです。
大きな事件が起きない映画といえば、フランス映画によくありますよね。日々の小さな喜びで構成された映画。今作は「おしゃれな雰囲気映画」というよりは、平凡な鑑賞者が誰しも持つ「小さな心の傷」に寄り添っています。「あ〜ここの傷、痛いよね」と寄り添い、「でもこの傷、なんか面白い形じゃない?」と前を向かせる。今作は静かなパワーを秘めています。
『甘いお酒でうがい』原作者の思いとは?
凄く面白そうだと思った映画。
甘いお酒でうがい。題名も凄く綺麗でセンス良い、試し読みで読んだら心にスッと入ってくる言葉達。どんな女性だろう?って調べたら…シソンヌじろうさん! 確か、俺スカに出てた方だよね?びっくりした。演技も上手くて凄いってなってたから今回もびっくり。— 凛 (@rinne_hane) March 24, 2020
シソンヌ・じろうが長年ネタの中で演じ、もはや彼の分身とも言えるキャラクター、川嶋佳子。
お笑い芸人であるじろうが、ネタキャラである川嶋佳子の日記を小説にした真意、気になりませんか?だって、一見すれば、志村けんが「ひとみばあさんの手記」を出版するようなものですよね。
シソンヌ・じろうが語る自分のコントテーマ、それは「不幸を笑いに変えること」。
川嶋佳子は独身であり、母親もすでに他界しています。川嶋佳子は、今までもこれからも日々降りかかってくる小さな不幸を一人で受け止めて、それを受け入れて前に進む。彼女のこのクッション性こそ、原作者じろうが伝えたい創作テーマであり、受け手の共感を集めているポイントなのです……!
映画『甘いお酒でうがい』の登場人物とキャストを紹介!
今作でメガホンを取る大九明子監督、『勝手にふるえてろ』『美人が婚活してみたら』など、女の生き様を女子トイレの角度から映し出した作品が代表的です。
大九監督は今作について「お母さんでも、奥さんでもない、大人の女性を主人公にした映画を撮りたいと思っていた」と語っています。「何も起こらないが起こる」今作、重要なのは魅力的な登場人物ですよね。
以下、主要キャストの役どころを紹介していきます!
40代独身 “川嶋佳子”(松雪泰子)
40代独身OL・川嶋佳子。派遣社員として働いていて、会社の同僚 “若林ちゃん” と遊ぶのが何よりの幸せです。
平凡な日常を毎日、日記に綴っている彼女。 “若林ちゃん” の大学の後輩である “岡本くん”といい感じになり、ちょっと心が躍ります。
後輩の同僚 “若林ちゃん”(黒木華)
佳子の同僚・若林ちゃん。佳子にとって彼女は一番の仲良しで、本作の究極の癒し。演じるのは黒木華。『凪のお暇』、ヒットしましたよね!
今作でも、「もし現実にいたら絶対可愛がってしまう後輩」を絶妙に演じています。佳子と歳は離れていますが、立場的には“同僚”。佳子を年上なりに敬いつつ遠慮しすぎない、懐っこい役どころです。可愛い!
ふた回り年下の“岡本くん”(清水尋也)
「日常映画」である今作の、唯一のリトマスとなるのが彼。
佳子より20歳年下の岡本くんです。若林ちゃんの大学の後輩で、若林ちゃんの紹介で佳子と知り合うことになります。
若手俳優の清水尋也が演じる“岡本くん”。これがまた、よくできた若者というか、爽やか。干支二周も歳の離れた佳子にも、自然で屈託のない笑顔を向けるわけです。かと思えば、礼儀正しそうなのに割とグイグイくる彼。「あ〜好きになっちゃうねえ、これは」と小刻みに頷く女性たちが、筆者には見えます……!
以下ネタバレ注意!映画『甘いお酒でうがい』はこんなお話
原作者であるそシソンヌ・じろうが脚本を手がけることから、映画『甘いお酒でうがい』は小説版と同じ顛末になることが予想されます。前述したように、大きな事件やドラマが発生しないのが特徴の今作。川嶋佳子の日記を通して、彼女と一緒に日々を受け止めていくのがこの映画の楽しみ方でしょう。
原作小説を未読で、映画『甘いお酒でうがい』を観ようか迷っている皆さんのために、ちらりとネタバレをしていきますね!
ストーリー 「これは私の日記。誰が読むわけでも、自分で読み返すわけでもない。ただの日記。」 とある会社で派遣社員として働く40代独身女性・川嶋佳子は毎日日記をつけていた。 撤去された自転車との再会を喜んだり、変化を求めて逆方向の電車に乗ったり、踏切の向こう側に想いを馳せたり、亡き母の面影を追い求めたり…。 佳子の唯一の幸せは会社の同僚である年下の若林ちゃんと過ごす時間。
女性であればあるあるだと思うのですが、信号待ちの時に前のめりになってしまうと、ヒールのつま先が詰まってしまって痛いんですよね。でも、それって重心をかかとに移せば平気なんです。
つまり、「早くしなきゃ」と思うから前のめって、つま先が痛くなっちゃう。わざわざ人には話さないけれど、「焦ってるなあ、自分」と憂鬱に感じます。何気ないことですがみんな共感する、こういう描写が次々と出てきて惹きつけられます。
そんな佳子に小さな変化が訪れる。それは、ふた周り年下の岡本くんとの恋の始まりだった…。
同僚の若林ちゃんにいじられっぱなしの“岡本くん”。ふた回り年下って、はっきり言って親子でも通る歳の差ですが、岡本くんがモーションかけてきます。そして普通にキュンとする佳子。
だって好かれたら嬉しいじゃないですか……?
映画『甘いお酒でうがい』岡本くんとの恋の結末は!?
全体的に暖かい雰囲気の今作『甘いお酒でうがい』。40代独身女性の「悲しみ」を全面に押し出した作品ではありません。切ないことも、嬉しいことも程よいバランスでやってくる今作。決して観て落ち込む作品ではないので、安心してください。「日常のやるせなさ」をポジティブに昇華する佳子。これ、彼女の最大の魅力です。
では、途中登場する岡本くんとの恋の行方はどうなるのか?気になるところではないでしょうか。「若い男に振られて荒む佳子」とか「大恋愛の末、結婚!そしてふたりは渡米……」という劇的な結末を求めている方には残念なお知らせ。そういうのはありません。最後に原作『甘いお酒でうがい』から引用を……。
「不幸に意味を持たせることで日常を楽しんで生きる」
出典元:小説『甘いお酒でうがい』