芥川賞作家・津村記久子の鮮烈なデビュー作『君は永遠にそいつらより若い』は、就職も内定した手持ち無沙汰な大学生“ホリガイ”の日常を綴った、極めて共感度の高い小説です。ところが、モラトリアムの終焉、22歳の憂鬱…そんな素朴な感情の他にも、ホリガイは強烈な欠落感を抱えていて……。
本記事では、映画『君は永遠にそいつらより若い』の見どころを、原作ネタバレ付きで紹介していきます!
2020年の東京国際映画祭「TOKYOプレミア2020」でワールドプレミア上映され、話題を集めた本作。大きな爪痕というよりは、ドン、とぶつかられたあとのヒリヒリした衝撃を彷彿させる『君は永遠にそいつらより若い』、キャッチコピーは「その言葉でじゅうぶんだと思う」。
映画『君は永遠にそいつらより若い』予告動画がこちら!
ジャンル | ヒューマン・ドラマ |
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公開日 | 2021年公開予定 |
監督 | 吉野竜平 |
主演 | 佐久間由衣 |
朝ドラで注目を集めた後、初主演映画『”隠れビッチ”やってました。』では、東京国際映画祭・東京ジェムストーン賞を受賞と、ここ数年で頭角を現す女優・佐久間由衣が主演する本作『君は永遠にそいつらより若い』。
就職活動も卒業単位の取得もそつなく終えた主人公・ホリガイ。身長175cm、ボーイッシュな彼女は長い学生生活において、自己のキャラクターを確立させてきました。いえ、誰しもありますよね、“学生の時だけのキャラ”。
そんな長い殻籠りを終え、社会を向き合っていかなければならないホリガイの日常に顔を出したのは、新しくできた友人の痛ましい過去と、これまで抱いたことのない感情でした。
映画『君は永遠にそいつらより若い』キャストを紹介!
キャラクター映画と言ってしまうと語弊がありますが、登場人物の魅力に見どころが詰まった本作、『君は永遠にそいつらより若い』。
ここでは、最も強烈な主演キャストである二人の女優さんを紹介していきたいと思います!
ホリガイ/佐久間 由衣 (さくま ゆい)
主演は、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』での主人公の親友役で脚光を浴びた佐久間由衣。コンフィデンスアワード・ドラマ賞の新人賞、東京国際映画祭東京ジェムストーン賞など、出演作が確実に評価されている新人女優さんです。
本作では、児童福祉系の職種に就職が決まっている大学4年生・堀貝佐世(ホリガイ)を演じます。卒業も確定し就職活動も終了、残りの学生生活をバイトと遊びでゆる〜く消化しているホリガイ。女性アイドルが好きで、話すときは基本“聞き専”。人がいい性格で友達が多く、処女。
そのことを、あっけらかんと“女童貞”と自虐することで内面の諸々を保っているのです。繊細。
イノギ/奈緒 (なお)
佐久間由衣と同じくNHKの連ドラで注目された女優・奈緒。2019年にはドラマ『あなたの番です』でサイコパス役を怪演し知名度をあげました。ドラマや映画に多く出演していますが、舞台がメインの女優さんのようです。
本作では、ホリガイと同じ大学に通う猪乃木楠子(イノギ)を演じます。聞き専で明るいホリガイはあまり自分の話をしませんが、なぜか独特の雰囲気を持つイノギには心の内を話すようになります。
そんなイノギの過去には、実は痛ましい秘密があり……。
映画『君は永遠にそいつらより若い』の見どころをおさえる!
「とっ散らかったことしか言えない人間なんです」、「わたしが並外れて不器用なのは、わたしの魂のせいだ」。
処女である自分のことを「女の童貞」、さらに「いい老人ホームに入ることが人生の成功」というスタンスをとるホリガイ。長い長い学生生活の衝突と屈折によって作りあげられてきた、ホリガイの危うくも愛すべきキャラクター。しかしほんの数ヶ月後には、彼女も社会に出ていかなければならないのです。
さてそれでは、映画『君は永遠にそいつらより若い』の見どころを紹介していきます!
“女童貞”、ホリガイに共感する読者多数
本作の主人公・ホリガイは22歳の大学4回生。進路の諸々を要領よく進めた、勝ち組の女子大生。あけすけな性格とボーイッシュな容姿、人の話は聞き手に回るホリガイは周囲から頼られる存在でした。
小説でもそうですが、とにかくセリフ回しが独特なホリガイ。映画を既に鑑賞した方のレビューでは「最初はこの話し方に違和感があった」という感想もちらほら見受けられました。ただ、この間接的な話口調もホリガイの過去のトラウマが反映されている……ということが後半、徐々に分かってきます。
“イノギさん”との出会い、トラウマが溶けていくということ
本作のキーパーソンとなるのが、準主役である“イノギさん”の存在です。学生生活も終盤の中、飲み潰れた友人を介抱していたのがきっかけで、ホリガイは同じ大学に通う“イノギさん”と出会います。
イノギさんは、ホリガイの数多い友人のひとり……にはなりませんでした。イノギさんと仲良くなる中で、普段聞き役のホリガイに「この人に話を聞いて欲しい」という思いが生まれます。
そして、ホリガイは小学校3年の時の恐ろしい記憶をイノギさんに話すのです。「男子にふたりがかりでねじ伏せられたことがある」「上履きを履いたまま、男子が机の上を歩いていたのを注意したら」「殴られ、蹴られ、乳歯が抜けるほど痛めつけられた」。
それを聞いたイノギさんは、ホリガイに言ってくれました「そこにおれんかったことが悔しいわ」。
イノギさんが髪をおろしている“理由”、壮絶な過去
「もうこちらで誰とも出会わんのやったら、わたしでええんちゃうかな」。ホリガイとイノギさんは、友人以上の関係になっていきます。
イノギさんはいつも長い髪をおろしていました。実は彼女の側頭部には大きな傷跡があり、そこには髪の毛が生えないのです。さらに傷がある耳は潰れていました。痛々しい後を隠すために、イノギさんはいつも髪を下ろしているのです。
その頭の傷について、イノギさんはホリガイに話してくれました。中学時代、自転車で家に帰っているところを車に追突されたこと。そのまま廃車置き場に連れて行かれたこと。逃げようとしたら石で頭を殴られ、耳が潰れたこと。そのまま暴行を受けたこと。
凄惨な経験の後、両親は離婚。娘との関わり方がわからなくなった結果、家族が崩壊したというのです。それからというもの、イノギさんは祖母に育てられました……。
これを聞いたホリガイは、かつて自分が救われたような良い言葉をかけようとしましたが、何も出てきませんでした。
『君は永遠にそいつらより若い』津村記久子/ちくま文庫
すさまじいデビュー作。後半はずっと涙が滲んで血の気が引いてた。生きていることが残酷なこともある。けどやっぱり生きている者はマシなのだ。津村記久子さんは好きだったけど、ますます好きになった。ホリガイはいいやつだよ。— miu (@miuuu317) March 5, 2017
“君は永遠にそいつらより若い”とは
ホリガイとイノギさん、ふたりとも他者からの侵害によって、性格や生活を大きくねじ曲げられました。ある日、ホリガイの男友達・穂峰が自殺します。穂峰が住んでいた下宿に形見分けをするからと呼ばれたホリガイ、穂峰の書いた遺書を読みピンときます。「下の階の翔吾くんにもよろしく」。
穂峰の部屋の下の階には親子が住んでいましたが、様子がおかしいことからネグレクトを疑い、穂峰とホリガイは“翔吾くん”を気にかけていたのでした。ホリガイは、下の階のインターホンを連打。返事がないことを確認した彼女は、周囲の制止を振り切ってベランダに飛び移り、窓ガラスを割って押し入ります。
暗い臭い部屋の隅、薄い毛布から少しだけ出ている、骨と皮だけの子供の手。ホリガイは翔吾くんを抱きかかえます。息がある、救急車を呼びました。翔吾くんもまた、他者からの侵害によって……。ホリガイは考えます。
イノギさんから「1時間だけ会いたい」と連絡が来ていましたが、それどころではなく断ってしまいます。
ここからのホリガイとイノギさんのすれ違い、クライマックスに向けてホリガイが起こす行動の爆発。前半の緩やかで切ないシーンの連続から、終盤は畳み掛けるように物語が展開していきます。
映画『君は永遠にそいつらより若い』の見どころまとめ
- 恥ずかしいくらい等身大の主人公・ホリガイのキャラクター
- 不思議な雰囲気を持つイノギさんの、“凄惨な過去”
- “他者からの侵害”に今も苦しめられているふたりが出会い、寄り添う姿
- これまで目を逸らしていた“自分の傷”に向き合ったホリガイが起こした行動とは?
- 「過去に遡って守りたい」手堅い勝ち組22歳、感情の爆発は必見!
社会人になったホリガイ。救出した翔吾くんは児童施設で、元気を取り戻しているそうです。ホリガイは“自転車の鍵”を持って、イノギさんに会うために和歌山行きのフェリーに乗りこみます。
翔吾くん…、イノギさん…、子供の頃、テレビで観た少年失踪事件……。ホリガイの頭の中には様々な思いが巡ります。そして彼女は思うのです。
「君を侵害する連中は年を取って弱っていく。が、君は永遠にそいつらより若い」 。