その香りを嗅ぐと、幸せになれる植物「リトル・ジョー」。
新種として開発された植物が引き起こす「人間の変化」をじわじわと描く、異色のスリラー映画『リトル・ジョー』についてあらすじ、ネタバレ解説をしていきます。
『リトル・ジョー』は独特な設定だけでなく、主演を務めたエミリー・ビーチャムが、第72回カンヌ国際映画祭で主演女優賞を受賞しました。
『リトル・ジョー』で圧倒的な演技力を見せた、彼女の演技についても解説しているので、ぜひご覧ください!
映画『リトル・ジョー』の概要
作中に登場する植物「リトル・ジョー」とは、主人公アリスが開発した新種であり、彼女の息子「ジョー」から名付けられています。
「リトル・ジョー」の香りには、人を幸福にさせる成分が含まれており、その効果を得るために欠かせないことが3つあるのです。
2.毎日、かかさず水をあげ、話しかける。
3.何よりも、愛情を注ぐこと。
アリスはまだ研究途中にも関わらず、規則を破って「リトル・ジョー」を持ち帰ります。
彼女は仕事にかかりきりで、相手をしてあげられないジョーに「リトル・ジョー」をプレゼントしました。
しかし、この「リトル・ジョー」が人々の、恐ろしい影響を与えるようになるのです…。
香りを嗅げば幸せになることが立証されているのに、なぜクリスやジョーはいつもと違う様子を見せるのか?どんなふうに変化していくのか?
そして「リトル・ジョー」の花粉に隠された、恐るべき効果が本作のポイントとなっています。
映画『リトル・ジョー』のキャスト・スタッフ
映画『リトル・ジョー』のキャストは以下のとおりです。
■エミリー・ビーチャム:アリス
バイオ企業の研究室にて、新種の花「リトル・ジョー」の開発に務めるシングルマザー。
■キット・コナー:ジョー
アリスの一人息子。母親思いの優しい性格。
■ベン・ウィショー:クリス
アリスの同僚。アリスに好意を抱いている。
■ケリー・フォックス:ベラ
アリスと同じ職場にいる、別のプロジェクトに務めるベテラン社員だが…。
主演のエミリー・ビーチャムはイギリス生まれの女優です。
ドラマに多く出演しており、映画では『ベルリン、アイラブユー』などに出演しています。
正直、日本での認知度はあまり高くないかもしれません。
アリスの助手・クリス役には、日本にもファンが多いベン・ウィショー。
『007』シリーズのQ役や、最近では『パディントン』シリーズで、主人公パディントンの声を担当しています。
他にも、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で、主人公に高圧的だった批評家女性を演じたリンゼイ・ダンカンも出演。
アリスのカウンセラー役で登場します。
そして、『リトル・ジョー』の監督を務めるのは、オーストリア出身のジェシカ・ハウスナー。
2009年に、レア・セドゥも出演した『ルルドの泉で』は数々の映画祭で高く評価されました。
世界有数の巡礼地であり、奇跡が起きると伝えられるルルドの泉。
そこで、信仰心の薄い主人公だけが奇跡の恩恵に預かることで、人々の光と影を浮き彫りにした問題作です。
『リトル・ジョー』は、ジェシカ・ハウスナー監督にとっておよそ10年ぶりの新作となります。
映画『リトル・ジョー』のあらすじ・ネタバレ
ここからは『リトル・ジョー』のあらすじを、ネタバレなしとネタバレありでご紹介します。
「リトル・ジョー」とアリス
バイオ企業で新種の植物を研究するアリス。
彼女は、香りを嗅ぐと人を幸せにする「リトル・ジョー」を開発。市場に出せるよう、展覧会までに完成するため仕事に没頭していた。
アリスはシングルマザーであり、一人息子のジョーと暮らしている。
しかし、仕事にかかりきりで、あまり相手をしてやれていない。
ときどきアリスの職場に来るジョーは、彼女の同僚クリスが、アリスに気があると話す。しかし、アリスはクリスと恋仲になる気はなかった。
ある日、アリスは仕事ばかりで迷惑をかけているジョーに、職場から持ってきた「リトル・ジョー」をプレゼントする。しかし、これは規律違反だった。
そんなとき、順調に進んでいたと思われる「リトル・ジョー」の開発に陰りが見える。
別のプロジェクトで開発された植物が全滅してしまったのだ。
しかし「リトル・ジョー」だけは何事もなく成長していた。
「リトル・ジョー」の花粉がもたらす効果
別のプロジェクトを進める研究者のベラが、職場につれてきていた飼い犬のベロがいないと相談に来る。
クリスが温室を探しに行くと、凶暴化したベラが飛びかかってきた。
その拍子に、クリスは「リトル・ジョー」の花粉を吸い込んでしまう。
翌日、ベロはベラの元に戻ったが、まるで別の犬のように性格が変わっていた。恐れたベラは、数日後にベロを殺処分してしまう。
同時に「リトル・ジョー」の花粉は、生物の性格を変えてしまう効果があると訴え始める。
しかし、アリスもクリスも、ベラの意見に聞く耳を持たない。
ベラには精神を病んで休職した過去があったからだ。
一方、自宅で「リトル・ジョー」の世話をするジョーも、花粉を吸い込んでしまう。
【ネタバレあり】変わってしまう人々。
ベラの訴えを聞かず、研究に打ち込むアリス。
しかし、クリスはアリスに無断で「リトル・ジョー」の生産数を増やし、ジョーは突然、父親のもとで暮らしたいと言い出すなど、周囲の変化は明らかだった。
さらにジョーは、アリスの社員証を無断で持ち出し、女友達のセルマと温室に忍び込んだ。
その時、セルマも「リトル・ジョー」の花粉を吸い込んでしまう。
自宅に戻った2人は「リトル・ジョーに話しかけると、返事をしてくれる」と言い出す。
ベラは「リトル・ジョー」の花粉の効果をアリスに認めさせたいだが、花粉を吸った社員によって温室に閉じ込められてしまい、翌日には態度が一変する。
今までの自分が言ったことは、妄想に駆られただけだったとまで言い出した。
最初は意見に反対的だったアリスも、ついに「リトル・ジョー」の驚異を認めざるを得ない状況になる。
しかし気づいたときには、誰もアリスの意見に耳を傾けなくなっていた。皆花粉を吸っていたのだ。
【ネタバレあり】「リトル・ジョー」の驚異に気づくアリスだが…。
ベラは温室で、殺処分したベロのおもちゃを見つけて泣き出してしまう。
彼女は花粉を吸ったフリをしていたのだ。ベラは「リトル・ジョー」を死滅させようとするが、他の研究員たちに止められる。
そのはずみでベラは階段から転落。意識不明の重体となってしまう。
事態を重く見たアリスは、温室の温度を下げて、リトル・ジョーを死滅させようとする。しかしクリスに感づかれ、顔を殴られる。
クリスは気絶したアリスのマスクを外し、温室を去る。
翌日、リトル・ジョーが展覧会でノミネートされ、市場に出ることが正式に決まった。
アリスは昨日のクリスの行いを許し、共に「リトル・ジョー」のノミネートを祝う。
ジョーは父親の家に住むことになった。
アリスは嬉しそうに、ジョーを父親のもとに送り届けた。
帰宅したアリスは、家にあるリトル・ジョーに水をやり、話しかける。
すると「リトル・ジョー」は「おやすみ、ママ」と返事をした。アリスは感染していた。
『リトル・ジョー』を見ると、何が幸福かわからなくなる!
「リトル・ジョー」で幸福になるメカニズムは、専門用語を交え説明されます。
同時に、「リトル・ジョー」には交配能力がなく、花粉で人を洗脳して守ってもらおうとする働きがあります。
その結果、花粉を吸った人間は常に幸福そうでありながら、「リトル・ジョー」にとって都合の良い考えしかできなくなるのです。
また、「リトル・ジョー」がもたらす「幸福」は、潜在意識で考えていることを実現することからもたらされています。
例えば、ジョーは花粉を吸ってから「父親の元で暮らしたい」と言い出します。
これは普段は母と一緒にいますが、心の奥底では「早く母から離れたい」と思っているというわけです。
同じく、終盤でアリスがジョーを父親に引き渡すのも、心の奥底で「子育てから開放されて仕事に打ち込みたい」という感情が潜んでいたからでしょう。
こう考えると、なんだか「リトル・ジョー」のもたらす幸福も悪くないのでは?と思えます。
しかし、なんでも潜在意識にある欲望を剥き出しにすると、その人の人間性を壊します。
アリスをはじめ、身近な人が花粉を吸った様子を「まるで別人だ」と恐れるシーンもあり、潜在意識の欲望は秘めておくことで、人間性が保たれているとも言えます。
あなたは人間性をなくしてまで、幸福になりたいですか…?
エミリー・ビーチャムが見せた、映画『リトル・ジョー』での演技
映画『リトル・ジョー』での演技が評価され、カンヌ国際映画祭の女優賞を受賞したエミリー・ビーチャム。
彼女が演じるアリスは、ちょっと特殊な立場に立たされるキャラクターです。
なぜなら、本来ホラーやスリラーにおける主人公は、“自分だけが異変に気づくも、誰にも信じてもらえず、ラストで周囲も異変に気づく”というパターンがよくあります。
ところが『リトル・ジョー』の場合、「リトル・ジョー」の異変に気づくのはアリス以外です。アリスだけは異変を信用していません。
しかし、アリスが「リトル・ジョー」の異変に気づいたとき、今度は周囲が(花粉を吸っているため)異変を信用していなくなっています。立場が逆転しているのです。
王道ホラーやスリラーでは、こうした逆転の演出は珍しいでしょう。
その役を見事に演じたからこそ、彼女は高く評価されたのかもしれません。
映画『リトル・ジョー』まとめ
いかがでしたか?
今回は異色のスリラー映画『リトルジョー』のネタバレと魅力を解説しました。
「幸せにしてくれる植物」というだけあり、本作を見ると幸せの基準について、とても考えさせられます。
単純に幸せばかりを追求すると、人間ではなくなってしまう。
それこそ、「リトル・ジョー」にとって都合の良い操り人形になるのと同じことなのかもしれません。
現実でも、こうした植物が開発されないことを願うばかりです…!