もはや「名優・千葉真一の息子」という肩書も要らないほどマルチに活躍をしている新田真剣佑。子役出身でロックバンド「DISH//」のリーダーも務めるミュージシャンとしても活動している北村匠海。最近の若手俳優の中でもユニークな活躍ぶりで注目を浴びているこの2人は共演の機会が多いことでも知られていますが、ガッツリな本格的共演を果たしたのが、1月24日公開の『サヨナラまでの30分』です。2人の個性を活かした絶妙なキャスティングのこの作品をご紹介!
『サヨナラまでの30分』あらすじなど(ネタバレなし)
『忘却のサチコ』やNHKの大河ドラマ『花燃ゆ』などのテレビドラマを主に手がけてきた大島里美の脚本を、CMディレクターなどを経て映画監督になり『東京喰種 トーキョーグール』などを手がけた萩原健太郎監督が映画化した、原作なしの映画オリジナル作品です。
バンド「ECHOLL」は、メンバーたちの仲違いからメジャーデビューの直前に解散、しかもボーカルを務めるアキ(新田)は交通事故で命を落としてしまいます。
1年後。就活中の大学生・颯太(北村)は、内向的な性格のためか面接もなかなかうまくいきません。ある日彼は偶然、アキが遺したカセットテープ式のウォークマンを拾います。それを再生させると、テープの片面が再生されている間の30分だけ颯太の体の中にアキの人格が入り、その間颯太の人格は体から抜け出てしまうのです。アキは強引に颯太と共同生活を送るようになり、颯太の体を借りてかつてのバンド仲間たちや、その一員でもあった恋人のカナ(久保田紗友)に会います。真相を知らない彼らは、まるで古くからの知り合いのように図々しく接してくる見知らぬ颯太(中身はアキ)を初めは疎ましく思いますが、まるでアキのような性格の颯太を次第に受け入れるようになります。そして、バンドを再結成しようと言い張る颯太の言葉に動かされたバンド仲間たちは、一度は諦めた夢に向かって歩き出めます。しかしカナだけはバンドへの参加を拒み続けます。彼女はアキへの思いを封印していた上、彼が自分のせいで死んでしまったという罪悪感に苛まれていたからです。そんな中アキは、颯太が音楽に対する夢と情熱を持ちながら、それを押し殺していることを知り、アキは颯太にミュージシャンとしてのいろいろなことを教えます。そうすれば、再結成したバンドで颯太が自分と一緒に活動するきっかけにもなるからです。一方、颯太はアキの代わりにカナの説得を続けますが、次第に自分でもカナに惹かれていきます。カナもまた、真相を知らないまま颯太に惹かれ始めます。そんな二人の様子を複雑な心境で見守るアキ。奇妙な三角関係が強まっていく中、アキに異変が起こり始めます…。
「入れ替わりもの」映画の進化形にして王道の音楽青春映画
2人の主人公の体が入れ替わってしまう…と言えば、古くは『転校生』(1982年)、近年では『君の名は。』(2016年)など、結構たくさんあります。それらの大半は入れ替わるのが男女で、性別の違いから悲喜こもごものドラマが生まれる、というのがおなじみのパターンです。この映画は性別こそ同じですがキャラがまったく違うことから本人たちも周囲も戸惑う、という展開です。これも男女の場合と同様、主役たちが元々のキャラと入れ替わった相手のキャラをきちんと演じ分けなければいけないので、演じる俳優にはかなりの演技力が必要となります。
そんな突飛な設定ですから、「入れ替わりもの」の作品は基本的にファンタジーと言えますが、人格が入れ替わることによって相手のことを理解したり、自分になかったものを知ることで人間的に成長したり…という風な人間ドラマの要素も強くなります。この作品も、安定志向で内向的だった颯太が、アキの人格に触れることによって音楽への情熱や仲間を持つことの素晴しさに目覚める、という本格的な人間ドラマにもなっています。また、アキがカナとの仲を復活させようとして利用していた“入れ物”の颯太とカナが惹かれ合っていくという皮肉な展開が、物語にちょっとした緊張感を与えています。そして、喜びと切なさが複雑に入り乱れるラストは感動的です。
主人公二人はそれぞれ困ったところもあるものの愛すべきキャラになっていますし、バンド仲間たちも熱くて人が好い連中であることがしっかり描かれていて、彼らの心境の変化や成長が爽やかな余韻を残します。
アキたちの出会いからバンドの解散・アキの死までをスタイリッシュな映像で分かりやすく描いたオープニングで一気に物語の世界に引き込まれます。「入れ替わりもの」に欠かせないユーモアも適度に盛り込みながら快調なテンポで映画は進み、最後まで飽きずに観ることができます。単なる「若手人気俳優のアイドル映画」的な作品ではなく、幅広い年齢層が楽しめる映画に仕上がっています。
真剣佑&匠海の「正しい使い方」で映画の魅力がさらにアップ!
最初にも触れましたが、主演の新田と北村はすでに映画やテレビドラマでたびたび共演しています。よほど気が合ったのか私生活でも仲が良く、この映画でも息がピッタリの好演です。その上、2人はこの映画の最大の魅力である“音楽”と関わりが深く、それがこの映画にピッタリだった理由でもあります。
新田は、日本だけでなくハリウッドでも活躍する日本のアクション俳優の先駆け・千葉真一を父に持ち、自身もハリウッドでデビュー。日本では父同様のアクションものに加えて、青春映画でも大活躍。そんなな中で共演者たちの間から「歌がとても上手い」という評判が立っていました。バンドのボーカル兼ギター・プレイヤー役である本作で、いよいよその歌唱力を存分に披露してくれるわけです。
片や北村は俳優として活躍する一方で、ダンスロックバンド「DISH//」のリーダー、そしてメインボーカルとギターを担当しています。颯太の役は、アキに体を貸している状態で歌とギターを披露するシーンが多いので、まさに「まんま」で演じることができます。また、カナとピアノを連弾するシーンも難なくこなしたとのことです。その一方で、体は颯太だが中身はアキというシーンが多く、内向的な颯太と開けっぴろげなアキの“スイッチ”の切り替えが多い役だが、北村は「入れ替わり」演技の難しさをクリアして実力を発揮している。
ちなみに、「ECHOLL」の歌として劇中に登場する楽曲はすべて、いろいろなバンドから募集した書き下ろしの新曲を、ロックバンド「androp」の内澤崇仁のプロデュースの下で使用しています。これらの歌も要チェック!
音楽への情熱、ほろ苦い恋愛、そして死生観…と、さまざまな要素を織り交ぜて、素晴らしい歌の数々を散りばめた、爽やかな青春映画の傑作『サヨナラまでの30分』、熱い友情と歌を映画館でぜひ!