© 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC
一冊の本から知恵と手をつかって風車を作った少年・・・その風車は家族と飢餓に苦しむ村を救い、少年自身にも希望あふれる未来をもたらした。
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世界23ヶ国語に翻訳された感動のノンフィクションベストセラーにもとづく映画『風をつかまえた少年』は、10年もの長い歳月をかけ制作されたキウェテル・イジョフォー初の長編映画監督作品。
イジョフォーはアカデミー賞作品賞を受賞した映画『それでも夜は明ける』で主演をつとめ、ディズニーアニメーションの名作を実写を超えた”超実写版”として蘇えらせた2019年公開の注目映画の一つ『ライオン・キング』で主人公シンバの叔父、スカーの声を演じる実力派俳優だ。
原作者のウィリアム・カムクワンバは2013年にタイム誌「世界を変える30人」に選出され、2014年にアメリカの名門ダートマス大学を卒業した。現在はアメリカと、故郷マウライを行き来しながら、若者が夢を実現できる環境提供に向け様々なプロジェクトに精力的に携わっている。
映画『風をつかまえた少年』の作品情報
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- 監督・脚本・出演:キウェテル・イジョフォー『それでも夜は明ける』
- 出演:マックスウェル・シンバ、アイサ・マイガ
- 公開:2019年8月2日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他全国順次公開
- 原作:「風をつかまえた少年」ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー著(文藝春秋刊)
映画『風をつかまえた少年』のあらすじ
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2001年アフリカのマウライ。14歳のウィリアム(マックスウェル・シンバ)はカチョコロ中等学校の入学式を迎え、喜びと希望に胸を膨らませていた。
しかし、担任のカチグンダ先生(レモハン・ツィパ)に授業料が未納であり、支払わないと退学になると告げられる。降り続く雨で農作物の収穫ができず家にお金はない。ようやく雨が止んだかと思えば、次は大干ばつがマウライを襲う。食べ物がなくなり、多くの農民と同じく収入源が途絶えたウィリアム家族は、更なる危機的状況に追いやられる。
理科が大好きなウィリアムは、カチグンダ先生が乗る自転車に付けられたダイナモ(発電機)をきっかけに、自分でバッテリーを作り畑に水を引こうと思いつく。姉のアニー(リリー・バンダ)と先生がこっそり付き合っていることを秘密にする代わりに、授業料は払えないが図書館を利用させてもらい本から学ぶ。
風車で電池を充電しポンプを動かせば、収穫量が2倍になり村はきっと豊かになる。ウィリアムは懸命に父に訴えるが耳をかそうとしない。しかし、母のアグネス(アイサ・マイガ)の言葉が頑なだった父に気づきを与える。
一人の少年の学びと挑戦が父、家族、村の人々の心を動かし共に人生を輝かせる・・・感動の実話。
イジョホーが絶賛した新人、マックスウェル・シンバの演技が光る
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主演のマックスウェル・シンバの演技は、本作にリアリティをもたらす要因の一つ。演技初挑戦にも関わらず圧倒的に自然体な姿には、イジョフォーも当初から驚いたという。
風車づくりには父の自転車が必要だと、懸命に説得するウィリアム。その姿は私たち観客が、それじゃ父がへそを曲げるのは目に見えている! そう胸を掻きむしりたくなるほどもどかしく、言葉足らずだ。多くの家庭で頻繁に見かけるような光景であり、理解し合う難しさをわが身のように感じる。
しかし、イジョフォーが「感情を目で表現できることをわかっている。」と感心する、マックスウェル演じるウィリアムの父をじっと見つめる瞳が、足りない言葉の奥底に込めた思いを私たち観客に訴えかけてくる。そして、ウィリアムから父へ心からの敬意が伝わる時、疲れ果てた父の心は温められる。
映画業界が存在しない!絶対的に困難な地マラウイで撮影した意味
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原作の舞台であるマウライは、全く映画業界が存在しない国だという。そのため多くの困難があったにも関わらず、制作陣はマウライでの撮影にこだわった。観客に本物の経験を味わってほしかったからだという。
マウライの一般家庭で常食される作物・メイズがさわさわと風に揺れる様子、色とりどりの鮮やかな民族衣装、風に砂ぼこりが起こり、激しく地面をたたきつける雨。所々で現れるグレワンクールの姿も神秘的だ。
話される言葉にもリアリティを追求している。劇中でかけおちの提案をされた姉のアニーが「わたしはヤオ語を話せない。」と恋人のカチグンダ先生に言うように、アフリカ内であっても多民族ゆえに使用言語が大きく異なる。学校ではみんな英語を話すが、家に帰ると地元の言葉(マウライではチェワ語)で話す、と言語はミックスされた状態が通常だという。
キャリアのある俳優陣でも習得に苦戦したチェワ語と、英語が現地さながら時々で使い分けられる劇中の日常に、私たち観客もまるでウィリアムの故郷にすっと入り込んだかのような感覚を味わえる。
父から息子へ、人生の教えに胸うたれる
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この映画から得られるものの一つは教育の大切さ、学び続けることの意義だ。一人の少年の学びと挑戦がもたらしたものに、老若男女問わず多くの観客が自分を顧みるに違いない。
無学な父から教育を受けた子への教えに、敬意を示していることにも心を揺さぶられる。「ぼくは学校に行ったから知っている。」というウィリアムを叱り飛ばしながら畑の耕し方を教える父の姿を、映画は乾ききった絶望的な大地を背景に鮮明に映し出す。
ポンプを使い水をくみ上げるだけでは作物は実らない。土を耕し種を植え、水を撒くことではじめて作物が実る。懸命に土地を耕す父がウィリアムに教えたことは、先人達が学び会得し代々受け継いできたこと。父が子へ伝える生きるための術―それもかけがえない学びの一つだろうーに深い愛情を感じる。