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映画【ダンシングホームレス】再上映が決定!ラスト新宿中央公園のダンスシーンに集約された「社会のルールがいいですか?」

2020年に公開された映画ダンシングホームレス』。本作はホームレスまたはホームレス経験者のみで構成されるダンスグループ“新人Hソケリッサ!”に密着したドキュメンタリー映画です。

緊急事態宣言による映画館自粛の時期と運悪く公開が重なった、映画『ダンシングホームレス』ですが、2021年7月9日までポレポレ東中野、さらに8月7日より大阪・シアターセブンにて上映されることが決まりました。

筆者個人的にとっても気になる作品だったので昨年の公開前に紹介記事を執筆し、劇場にも足を運んだのです。そしていざ観てみると、完全にいい意味で思てたんと違ったわけで……。

映画【ダンシングホームレス】の予告動画がこちら!

ジャンル ドキュメンタリー
制作年 2020年
監督 三浦渉
キャスト アオキ裕キ、横内真人、伊藤春夫、小磯松美、
平川収一郎、渡邉芳治、西篤近、山下幸治

本作『ダンシングホームレス』の主な舞台は新宿。都心では日が落ちると道の端や閉店したお店の外壁などをコの字に囲ったホームレスの寝床が出現します。それはあまりにも当たり前の光景で、彼らが何を考え生きているのか、なぜホームレスになったのか、知る機会はまず訪れません。

ビッグイシューを購入するなど彼らを知るための機会はいくつかあっても、多くの人にとってホームレスとは“ただ、道で寝ている人”に過ぎないのではないでしょうか。

そんな新宿のホームレスを集めたダンスグループが存在し、彼らの肉体表現が私たちの心を奮い立たせる、と言ったら信じられますか……?

映画【ダンシングホームレス】はどんな作品?

本作『ダンシングホームレス』が密着するダンスグループ“新人Hソケリッサ!”の主宰を務めているのが、振付師・アオキ裕キさん。

アオキさんはダンス留学先のニューヨークで同時多発テロの混乱に遭遇。日本に帰国後「生きることに向き合わざるを得ない路上生活者」に「彼らの体からしか出ない魅力」があるのではないかという思いから、“新人Hソケリッサ!”を旗揚げしました。

新人Hソケリッサ!の“唯一のルール”は、人に危害を加えないこと。これは彼らのあるがままを受け入れることで、原始的な生活をするホームレスたちにしかできない肉体表現を引き出そうとするアオキさんの意図から生まれた最低限のルール。

実名、顔出しで登場するメンバーたちは家庭内トラブルや難病など、社会から爪弾きにされた挫折
経験を作中で赤裸々に語ります。

映画【ダンシングホームレス】の再上映が決定!

x.com

全国の劇場で順次公開!と思いきや、2020年は緊急事態宣言に伴う自粛要請により、上映劇場も期間も短めになってしまった『ダンシングホームレス』。SNSのクチコミや国外の映画祭での受賞などで、ジワジワと認知度を上げつつあります。

近日中の上映予定は以下の通り、

6/27〜7/16までポレポレ東中野にて上映
8/7〜8/13まで大阪・シアターセブンにて大阪アンコール上映

さらに公式サイトを見ると自主上映者募集をしており、客席数50名以内の規模であれば45,000円で本作のレンタルが可能です。(プロジェクターなどの諸費用はかかりますが……)

……意外とリーズナブルじゃないですか?
映画って借りられるんだ、って。学校や地域のイベントで映画鑑賞とか、良いかもしれませんね。

(2021年6月28日の情報です)

映画【ダンシングホームレス】の見どころ

映画ダンシングホームレス』は、“ダンスを通してホームレスたちが生きがいを取り戻す姿に密着しています”。って、筆者は過去に書いたのです。

しかし、なんというかそうじゃなかったんですね。うーん、それだけじゃなかったというか、得たものの説明をしたほうがいいかもしれないと思ったのです。

観客の腕組みを溶く、アオキ裕キの魔力

社会のルールが正しいですか?」。こうフライヤーに書かれたら、社会派かと思って眉間に皺寄せて劇場に足を運びますよ。そして腕を組んで「このドキュメンタリーの醍醐味を逃すまい」と構えます。

ところが、実際スクリーンでアオキさんから放たれた言葉は、非常にあっけらかんとした「社会のルールがいいですか?」。そこで初めて“自分の腕組の正体”を知るんですね。この腕組みこそ、30年かけて筆者に積み上げられてきた“社会のルール”そのもので、アオキさんは別にそれを否定しているわけではない、と。

ただ、腕を組んでもいいんだけど、組まなくてもよくて。腕を組まないことで批判されることもあるだろうけれど、腕を組んでいないからこそ魅力的に見える人たちが世の中には探すと居て、そして、それは素晴らしいことで……。彼らの存在が人を勇気づけることもあって……。

振付師・アオキ裕キさんは「社会復帰の足掛かりに…」とか、ボランティアでやっているんじゃないんですよね。「もう持っているものは自分の身体しかないという状況において、どんな表現が生まれるんだろう」と。

「面白いものが見たい」というひたすら純粋な表現者の視点の前では、観客の腕組みバリアも溶けて然るべきです。

「カメラに触らせて」

本作では、新人Hソケリッサ!のメンバーが実名・顔も映して登場します。ホームレスに行き着くまでの経緯は皆それぞれで、作中では彼らのバックボーンが本人の口から語られます

父親の家庭内暴力が元になりホームレスになった“平川さん”は、序盤、父親のエピソードを語ることに少し抵抗を見せます。父親の暴力に耐えかねて平川さんの母親は一人失踪、平川さん自身も中学卒業と同時に逃げるように家を出て、その後30歳の時にホームレスになりました。

そんな平川さんが徐々に監督に心を開き、当時の出来事や心境を語り始めるシーンは印象的です。次第に平川さんの方から質問が飛び、「カメラに触りたい」と言い出す姿を見て、彼が中学卒業時にどんな気持ちで家を出たのだろうとか、その後長い間、“普通の生活を送る人びと”をどんな気持ちで眺めてきたのだろう、と一瞬で想像してしまいました。

ドキュメンタリーって、監督の「こういうの撮るぞお!」みたいな志があって、そこに誘導されていくパターンが結構あります。しかし本作では、新人Hソケリッサ!を“どこにも誘導しない”スタイルを貫いています。

それは観ていて不思議な心地よさがありますし、きっと取材を受けた新人Hソケリッサ!のメンバーもその心地よさを受け取ったのではないかな、と思います。

わたしもあなたも“去年とは違う”

はっきり言って、彼らのことを嘲笑うのは簡単です。“ハマれてない”人たちを下に見ると、自分がうまいことハマれているような気がしてとても安心するから。

しかし本作の随所に溢れている“笑い”はあっけらかんとしたもので、「かわいそうなホームレス」を見にきた自分が恥ずかしくなるほどの優しさを秘めています。

今でこそ、コロナ禍による生活困窮の広がりが深刻だと言われています。しかしコロナが流行の兆しを見せ、緊急事態宣言が続いたころ、一部の企業や個人事業者からあがり始めた「事業が苦しい」という声に「その程度の蓄えもしていなかったのか」という非難が少なくなかったことを覚えています。

コロナ禍が長引き、職を失ったり社会から脱線してしまう人の足元を掬うような言動はかなり減ったように感じます。

私たちが今も享受している“普通の生活”と“路上生活”の境は、実はほんのごくわずかであり、悲惨なコロナ禍でひしゃげた私たちの心に一石を投じるのは、“踊るホームレス”かもしれないのです。

映画【ダンシングホームレス】の見どころまとめ

  • 「社会のルールがいいですか?」どうですか?
  • 「面白いものが見たい」純粋な表現者の視点
  • 「カメラに触りたい」から想像するこれまでの人生
  • “普通の生活”と“路上生活”の境を見た、2020年の私たち
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