11月3日に公開される、映画【人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした(以下つんドル)】。
深川麻衣さんが主演を務め、井浦新さんが共演する本作は、血縁関係もなく、恋人でもない赤の他人であるおっさん“ササポン”との同居生活を通じて、主人公・亜希子が失った日常を取り戻す物語です。
本記事では【つんドル】の原作についてのネタバレ紹介と原作を読んだ感想をお伝えします。
映画【つんドル】について
監督 | 穐山茉由 |
脚本 | 坪田文 |
原作 | 大木亜希子 |
出演 | 深川麻衣、井浦新、他 |
公開 | 2023年11月3日 |
公式サイト | https://tsundoru-movie.jp/ |
小説【つんドル】のネタバレ
六畳一間のマリー・アントワネット
歌って踊っていた元アイドル、大木亜希子は、一般企業に勤めながら、ハイスぺ男性との結婚を夢見て“ノルマ飯”をこなしていた。
そんなある日、仕事に向かう途中で足が前に進まなくなり、駅のホームで立ち往生してしまう。
1週間経っても体調は元に戻らず、やがて朝も起き上がることができなくなり、とうとう会社を辞めざるを得なくなった。
亜希子を心配した姉からルームシェアを提案される。
相手は通称“ササポン”と呼ばれる、バツイチの56歳サラリーマン。
バカにならない家賃や光熱費、底をついた貯金……亜希子は赤の他人のおっさんとの同居を決断した。
実際に会ったササポンは普通のおじさんで、亜希子は彼との同居生活に不安を感じながらも、なぜか安心感を覚える。
彼の“思ったことをただ口にしただけのシンプルな言葉”に、なぜか心がホッとするのを感じた。
フリーランスは辛いよ
体調が回復してくると、親しい友人ヒカリの紹介で新しいバイトを始める。
同時に、フリーランスライターとしての活動も本格的にスタートさせた。
しかし、大手ウェブメディアの編集長とコンタクトが取れたと思ったら突然のドタキャンで終わり、情報誌の編集者から連載の依頼が来たと思ったら、既婚者なのに恋愛関係を求めてくる“ヤバい奴”だった。
その状況に困り果てた亜希子を守るためにササポンは奮闘してくれた。
一緒に住むようになってから、ササポンの淡々とした優しさが、亜希子を救ってくれる存在になっていったのである。
真夜中のスイカとショパン
アイドル時代の思い出に浸る亜希子は、ササポンが弾くショパンの音楽に心を寄せていた。
20代前半の夏、高宮浩介という30代後半のフリーランスカメラマンと出会う。
最初はあまり良い印象ではなかったものの、徐々に浩介は居心地の良い存在に変わっていった。
ある日、浩介からの誘いで屋久島での撮影アシスタントを頼まれ、星空を撮影した。
撮影後、どちらからともなく手を繋ぎ、東京へ帰る日には浩介に自分の気持ちを伝えた。
浩介はしばらく無言のままでいたが、彼には結婚を考えている恋人がいることを告げる。
亜希子は、もう2人で会うべきではないと悟った。
春が訪れた頃、亜希子はアイドルを辞めて一般企業に就職していた。
ある日、ヒカリからの連絡で浩介が結婚したことを知り、亜希子は彼を思い出し泣き崩れる。
そして、浩介との縁を断つために、彼と繋がっていた全てのSNSを切り、彼の情報を遮断した。
――この出来事を思い出し、泣いてしまう亜希子。
ササポンは理由も聞かず、亜希子にティッシュボックスを手渡した。
煩悩ババア
ヒカリに男性との飲み会に誘われ、リハビリの一環として参加することに。
そこで鳥羽と名乗る男性と意気投合し、気持ちが次第に高まる亜希子。
しかし何杯もビールを飲み続け、完全に“よくないエンジン”が発動してしまった亜希子の言動は次第に暴走していった。
酔って何も覚えていない亜希子が自宅で目を覚ます。
電話でヒカリに昨日の出来事を聞くと、寝言で浩介の名前を呼んでいたことや、鳥羽に対して失礼な態度をとっていたことを告げられ、愕然とする。
ササポンに昨夜のお酒の失敗について話すと、過去のことは気にしすぎないようにと助言してくれた。
今の亜希子にとって、自分の失敗を吐き出せる存在がいることは大きな救いであることを実感したのだった。
「ご報告」恐怖症
友人の景子からの突然の結婚報告に祝福の言葉をかけた亜希子だったが、同時に景子が自分を置いて行くのではないかという複雑な気持ちを抱えていた。
誕生日前日、20代最後の誕生日を迎える亜希子は未来に対する不安と焦りを感じる。
友人たちはお祝いのためにそばにいてくれたが、景子の結婚で状況が変わることに対する不安が頭をよぎったのだ。
しかし、友情の絆を再確認し、景子の結婚を心から祝福できるような前向きな気持ちになれる日になった。
帰宅してお風呂に入っている最中、母からの電話があり、誕生日のお祝いの言葉とともに「痩せてほしい」と言われてしまった。
母は本来の体重に戻れば良いサイクルがやってくると助言し、「痩せることが目標というより、マインドを変えてほしい。自分が変われば、他人を妬んだりしなくなる」と言う。
この言葉に目の前が揺らぐ亜希子。
お風呂から上がると、ササポンからの誕生日プレゼントが置かれていた。リフトアップ用の美容ローラーだ。
プレゼントを手に取りながら、母の言葉を反芻し、変わりたいという気持ちを強く感じた。
セーラー服のアラサーよ、どこへ行く
ダイエットを始め、周囲から「痩せたね」と言われることが増え、亜希子は前向きな気持ちになっていた。
今なら他人の幸せも、心から祝福できる気がする。
亜希子は再び人生に期待が芽生えるのを感じていた。
しかしある朝、Facebookに子どもの誕生を報告する浩介の投稿が現れ、亜希子は再び心のどん底に沈んでしまう。
ある日、バイト帰りにヒカリと景子が家まで送り届けてくれ、さらには食事の準備までしてくれることになった。
突然の提案により、制服姿に変身した3人はたこ焼きパーティーを開催する。
食べ終わると、制服のまま夜の街へ繰り出し、プリクラやカラオケで楽しいひと時を過ごす3人はもはや無敵モードだった。
この荒療治が功を奏し、亜希子は心が軽くなっていることに驚く。
年を重ねても、お互いに支え合って乗り越えていこうと誓い合った制服姿の3人は、気がつくと揃って泣いていた。
ふたりだけの軽井沢旅行
“一歩も歩けなくなったあの日”以来、定期的に病院でカウンセリングを受けていた。
医師との対話の中で、仕事や恋愛における焦りから誤った行動をしようとしていたことに気づき、そして、人生には休憩も必要だとの助言を受け、その言葉に深く反省した。
翌日、ササポンの軽井沢の別荘に招かれ、そこでこれまでの経験や感情と向き合う。
ササポンは「落ち込んだときは、美味しい物を食べて、寝るに限る。そうすると、越えられない壁なんてないと僕は思える」と言葉をかけ、亜希子を励ました。
事情を知らないはずのササポンの言葉に涙を流し、生きていくことが面倒くさいと感じながらも、もう少しだけ頑張りたいとの思いが芽生えたのである。
浩介がいなくても元気に生きていけるということを証明したいと強く思うのだった。
アイドル生命が終わる
久しぶりに会ったライター業界の先輩や、姉の言葉をきっかけに、自分の進路について今一度真剣に考えなければならないと思う亜希子。
そんなときに唯一の心の拠り所であったブログが徐々に注目を集め、“プチバズ”を起こすようになり、ついにはエッセイ執筆の依頼が舞い込んだ。
そのエッセイのタイトルは「29歳、人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」。
会社員時代の荒んだ生活から転じて、ササポンと同居生活を始めるまでの一連の出来事を描いたものである。
もしかすると読者からはやや“ヤバい女”だと思われ、数少ない男性ファンにもドン引きされるだろうと考えていたが、実際にエッセイが掲載されると、X(旧Twitter)のトレンドワードに乗るほどバズった。
あらゆる意見が飛び交い、DMには取材の連絡が殺到。
奇妙な“ササポンフィーバー”に戸惑いながらも、いつもと同じ日常を送るのだった。
さよなら、ササポン
クリスマスが近づく中、前向きな気持ちを取り戻していた亜希子は、ササポンとの共同生活を楽しみ始めていた。
しかし、ササポンから2年後には軽井沢へ移住するつもりだと告げられ、同時に亜希子もこの家を出なければならないことを知る。
ある日、留守を頼まれた亜希子が高熱を出し、救急車を呼ばざるを得なくなった。
病院に搬送されたが入院はできず、しかも自分には迎えを頼める人がいないことに気づき、思わず泣いてしまう。
点滴を受けて体調が戻り帰宅した亜希子は、この突然の体調不良は神様からの「自立せよ」というお告げかもしれないと考え始めた。
ササポンが帰ってくると、部屋の前に中身の詰まったコンビニ袋と食事を置いてくれた。
甘えすぎてはいけないと思いつつも、食べているうちになんだか泣けてくる亜希子だった。
前奏曲第一五番『雨だれ』
熱が少し下がってきた頃、搬送された病院で診察を受けていた。
“クリスマスに予定がない理由”が欲しくて、期待を込めていつまで自宅待機が必要か医師に尋ねる。
しかし、医師が指した日付はクリスマス前日だった。
かつての“ノルマ飯”時代に知り合った男性たちに連絡すべきか悩んだが、彼らと過ごしても何の解決にもならないことに気づき、不安や孤独を受け入れてみようと決断する。
クリスマス当日、ササポンと一緒にピザを食べて過ごした。
これまでに口にしたどのピザよりもおいしいと感じ、何気ない瞬間こそが幸せだと悟る。
この半年の同居生活を振り返り、自分はもう大丈夫な気がすると亜希子は思った。
小説【つんドル】の感想
元アイドルと赤の他人のおっさんが同居する話というテーマに少し不純な気持ちを持ちながら読み始めましたが、読んでいくうちに亜希子とササポンの程よい関係性や、友人たちの優しさを感じて心が温まる気持ちになりました。
自分を変えなければならない現実に目を背けながら、ありのままの自分を受け入れてほしいと足掻く様は、なんとも滑稽に思えました。
しかしその中で亜希子が抱える苦悩には、私自身にも共通する部分があります。
彼女の苦悩に寄り添い、支え、見守る周りの人たちの愛情に触れることで、私も何か救われたような気持ちになりました。
この物語は、困難が訪れたらただ抗うのではなく、一度立ち止まることも重要であり、また歩き出せるよう誰かに手を差し伸べてもらうことも大切だということを教えてくれました。
最後に
今回は映画【つんドル】のもとになった大木亜希子さん原作小説についてのネタバレ紹介と原作を読んだ感想をお伝えしました。
亜希子の心境の変化、ササポンや友人たちとの会話を小説で読むとより楽しめます。
また、原作には特別書き下ろしがあり、ササポンとの暮らしを終えた後の話も載っているので、ぜひ映画公開前に読んでみてください。