今から100年前に実際に起きた失踪事件”フラナン諸島の謎”をベースにした、ミステリー映画『バニシング』が、2020年1月24日に公開されました。
フラナン諸島の謎こと『アイリーンモア灯台事件』は、失踪事件として捜査されていながらも、事件が起きた島自体に古くから「侵入者を歓迎しない妖精がいる」という言い伝えがあったこと、さらに失踪現場に不審な点が見られることから多くのオカルト的な憶測が飛び交っている事件でもあります。
そんな謎に包まれた未解決事件を、あえてオカルト要素ゼロ、『人間の心の闇』に真正面から焦点を当て、ストーリー化した新作映画『バニシング』について紹介していきます!
映画『バニシング』(2020)の概要
『バニシング』は、デンマークで社会現象を起こした大ヒットミステリードラマ『THE KILLING/キリング』のメインである監督クリストファー・ニーホルムが、初の映画監督に挑戦することでも注目されています。
THE KILLINGといえば、アメリカ制作のリメイク版に夢中になっている方も多いのではないでしょうか?
閉鎖された島での泥沼の心理戦を、ミステリーに定評のある監督クリストファー・ニーホルムが映像化・・・!
実在する事件『フラナン諸島の謎』とは?
映画のあらすじを紹介する前に、ベースとなった”フラナン諸島の謎”について解説していきます。映画のストーリーも中盤までは実在の事件になぞらえたものになっています。
フラナン諸島の最大の島である『アイリーン島』。この付近の海は難所として知られていて、船乗り達にとっては島の灯台の光がとても重要な道しるべでした。そのため、アイリーン島の灯台では、元船乗りである3人の男が常駐し、灯台守を行なっていました。
1900年12月15日フラナン諸島沖、貨物船がアイリーン島の灯台を探した際に、光が無いことに気づきます。アイリーンの灯台は、もしトラブルが起きたとしても救難信号が発光されるようになっており、つまり「絶対に光っていないとおかしい」存在。船員達は後日、調査に向かいます。
調査隊が足を踏み入れた灯台内は、荒れた様子もなく、消えていた灯台のランプそのものにも全く異常なし・・。ただ、常駐しているはずの3人の灯台守がさっぱり消えているという状態。よくよく調査すると、常備してあったはずの道具箱が紛失しており、3着あるはずの作業着が、なぜか2着だけ消えています。
現場の状況から、暴風雨の際に岩場でなんらかの対処をしていた2人(道具箱を持ち、作業着を着て)が、嵐によって海に投げ出されてしまったのでは?と推察されていましたが、ではあと1人はなぜいないのか・・・?
さらに現場では、3人の中でも灯台守歴が長く、リーダー格であったトマスの日記が見つかるのですが、その内容は極めて異様なもので・・・。
『ザ バニシング 消失』(2019)との混同に注意!
映画『バニシング』とそっくりの邦題がついた、『ザ バニシング 消失』という作品があります。
こちらは公開当時の1998年にスタンリー・キューブリックが絶賛、のちにハリウッドリメイクもされた話題作でしたが、日本では長らく未公開でした。
それが2019年、ついに日本上陸!ということで、『バニシング』で検索すると、まあ混同する混同する・・・。『ザ バニシング 消失』もサスペンスではありますが、こちらはサイコパスが登場する映画で、分類するならばサイコスリラーのジャンルです。
今回紹介している『バニシング』は、元船乗りの真人間たちが、極めて現実的な理由から、静かに徐々に狂っていく様子を描いた作品です。
タイトルは似ていますが、かなり趣向の違う作品なので、ご覧になる際は間違えないようにどうぞご注意くださいね!
映画『バニシング』(2020)の作品情報
- 原題:Keepers
- 監督:クリストファー・ニーホルム
- 脚本:ケリン・ジョーンズ、ジョー・ボーン
- キャスト:ジェラルド・バトラー、ピーター・マラン、コナー・スウィンデルズ
- 公開:2020年1月24日
- 上映時間:107分
- 製作国:イギリス
映画『バニシング』(2020)のあらすじ
映画『バニシング』で起きる事件は、実際の『アイリーンモア灯台事件』の概要をそのまま設定に組み込んでいます。
実際の通り、灯台守である彼らの仕事は、住み込みで島にある灯台を灯し続けること。
ところがある日、島に流れ着いた漂流者の男を自衛のために殺害してしまったことで、彼らの状況は一変します。男と一緒に流れ着いていた荷物の中には、『大量の金塊』。はずみで殺人を犯してしまったことに加えて、突然の金塊の山・・・当然3人の灯台守たちは、動揺します。
最初のうちは、モラルを保っていた彼らでしたが、舞台は孤島。周囲の海は難所。この事実を知っている人間は、自分を入れてもこの世でたった3人。自責の念と、次第に湧き上がってくる欲望、そして「他の奴らも同じことを考えているのではないか」という懐疑心が絡み合い、深みに嵌っていく3人の灯台守たち。
そこにやってくるのは、殺してしまった漂流者の仲間と名乗る2人の男。『男と荷物』の行方を探して、灯台にたどり着いたのです。
咄嗟に、全力でしらばっくれる3人。
しかし、欲のために人を殺しておいて、何事もなかったように精神を保てるほど、人間は強くできていないんですね・・・。
主演は躍進中のジェラルド・バトラー!プロデュースにも参加
3人の灯台守の中でも粗暴な性格の大男を演じるのは、ジェラルド・バトラー。
映画『300/スリーハンドレッド』で主演を務め、スターダムに駆け上がった俳優です。ヒット作の『レオニダス王』の影響から、日本ではアクションと筋肉のイメージがありますが、『オペラ座の怪人』のファントム役など、複雑な心情を演じるサスペンスでの演技に定評があります。
近年は、映画プロダクションを構えプロデューサーとしても活躍しており、今作の企画に惚れ込み、製作にも携わっています。
危うげな新人灯台守を演じるのは長編映画初挑戦の若手俳優
新米灯台守を演じるのは、イギリスの元モデル・ボクサーである俳優、コナー・スウィンデルズ。
体格に似合わず不安げな感じがアンバランスで、役に絶妙にマッチしています。
『バニシング』撮影時は20歳の新人俳優でしたが、その後才能を買われ、現在ヒットしているNetflixドラマ『セックス・エデュケーション』ではメインキャストを務めています。
実力派監督でもあるピーター・マランが脇を支える
3人の中で最年長、25年のベテラン灯台守を演じるのは、ピーター・マラン。
名作映画『トレインスポッティング』、『ブレイブハート』に出演している実力派俳優であり、同時に監督としても才能を発揮しています。
役では後輩たちを導くリーダーシップが、事件によって脆く崩壊し、次第に暴走していく様子を見事に演じきっています。作品に緊張感を与える、影の主役のような位置付けであると言えます。
結果より過程!3人の男達が閉鎖された島で壊れていく様子が見どころ
実際に起きた未解決事件をテーマにしていることから、ハッピーエンドになることは絶対にあり得ないと予想できてしまう今作。
しかし、『バニシング』の見どころは、殺人による自責の念、そこに突然降って湧いた金塊によって、少しずつモラルが壊れ、狂っていく3人の灯台守たちの姿です。
もし仮に最後の1人になることができれば、いくらでも隠蔽することが可能な『孤島』というロケーションも相まって、中盤の「やられる前にやってやる」という捨て身の攻防戦には、かなり緊張感があります。
劇中BGMをほぼ使わず、オカルト要素も徹底的に排除して粛々と繰り広げられる破滅劇は、一見の価値ありです。
興味が湧いた方は、いざ、心を削られに映画館へ!