ジブリ作品の「耳をすませば」と聞くと、まず思い浮かぶのが「カントリー・ロード」のメロデイだという方も多いかもしれません。スタジオジブリの9作目の作品である「耳をすませば」は、集英社「りぼん」に連載されていた柊あおい先生の名作漫画を1995年にスタジオジブリにて、アニメーション映画化された作品です。監督は、アニメーターの近藤喜文氏が初監督作品として製作しました。
この作品は、誰もが一度は通るような甘酸っぱい恋物語ではあるものの、原作漫画版とアニメ映画版では若干背景の設定や展開などが異なっています。(違いは後程ご紹介していきます。)2022年には、10年後の様子が描かれた作品が実写映画化されており不屈の名作の大人気のストーリーとなっています。あらすじやキャラクターと声優さんなどご紹介していきます。
「耳をすませば」とは?
現在、それぞれの時代の記憶と記録を通じてジブリ作品を体感する展覧会「ジブリ展」が日本全国で開催中のスタジオジブリ。日本のみならず先日から中国でも開催されており、チケットはすぐに売り切れるほどの大人気となっているそうです。
スタジオジブリの作品の魅力を、体感できるというのは、ジブリファンにとってはこの上ないヨロコビですよね。まだ訪れていない方や、ジブリパークは遠くて行けないなんて方は、ぜひジブリ展はおススメですよ。
さて、この「耳をすませば」ですが、高畑勲監督・宮崎駿監督作品を1970年代から晩年まで名アニメーターとして支え続けた近藤喜文監督の長編初監督作である作品です。残念ながら、1998年に46歳という若さで他界してしまった近藤監督にとって、本作が最初で最後の監督作となった作品です。
冒頭にもご紹介したように、「耳をすませば」(英:Whisper of the Heart)は、柊あおいの漫画作品が原作となって製作されています。集英社『りぼん』に1989年8月号~11月号まで連載され、1990年に単行本化された名作漫画作品です。
その後、漫画版では月島雫が中学3年の夏休みに体験した、不思議な出来事を描いた続編の「耳をすませば〜幸せな時間〜」が『りぼんオリジナル』1995年8月号に掲載されました。
ちなみに、この作品「耳をすませば」(英:Whisper of the Heart)もそうなのですが、多くのジブリ作品は海外で英語のタイトルがつけられて、21作品が海外版Netflixで配信されています。
ジブリ作品は海外で、背景や食べ物、そして細かな描写や日本の風景などが描かれていてとても美しいと評価されています。そして、この作品においては、日本に住む日本人の日常の生活が表現されているという点が人気の理由のようですよ。
2022年に実写版となった映画「耳をすませば」では、原作漫画とアニメ映画で描かれた中学時代のストーリーに加えて、主人公2人が大人になった10年後をオリジナルストーリーで描いているため漫画版のストーリーの続編とはちょっと違うかもしれません。実写版では、清野菜名と松坂桃李のW主演で実写映画化されています。
「耳をすませば」あらすじは?
アニメ版は、原作となった漫画版とはちょっと背景や状況などが違ったりするのですが、簡単なあらすじをご紹介します。
好きなひとが、できました。月島雫は、明るく読書好きな女の子。中学3年になって、回りは皆受験勉強で一生懸命なのに、いつも学校の図書館や市立図書館で本を読みふけっていた。
雫はある日、図書館の貸し出しカードに「天沢聖司」という名前を発見する。雫が読む本には必ずといっていいほどその名前があった。やがて、雫はひとりの少年と出会う。中学を卒業したらイタリアへ渡って、ヴァイオリン職人の修業をしようと決意している少年。
その少年こそ「天沢聖司」であった。雫は聖司にひかれながら、進路も将来も自分の才能にもすべてがあいまいな自分へのコンプレックスと焦りに引き裂かれていた。
やがて、雫は聖司の生き方に強く心を動かされ、聖司の祖父・西老人が経営する不思議なアンティークショップ「地球屋」にあった猫人形「バロン」を主人公にした物語を書き始めるのだった…。
「耳をすませば」原作とアニメ版の違いは?
それでは、原作の漫画版とアニメ版の違いや知っておくと楽しめるところをご紹介していきます。
★雫と聖司の年齢が違う
アニメ版「耳をすませば」では雫と聖司の年齢は、高校受験を控えた中学3年生という設定でしたが、この年齢はスタジオジブリのオリジナルストーリー設定になっています。原作の漫画版では中学1年生として描かれています。
★”ヴァイオリン職人”が聖司の夢ではない!
主人公雫の思い人の聖司といえば、ヴァイオリン職人を目指してたことでも知られていますが、漫画版では画家を夢見ている少年として描かれています。
★聖司にはお兄さんがいたはず?
映画の中のセリフで名前だけ登場する聖司の父の病院である「天沢医院」ですが、原作の中では建物も登場しています。そして、原作の漫画の中では「天沢航司」という聖司のお兄さんが登場しています。
そのうえ、驚くことに天沢航司と雫の姉である月島 汐はお付き合いをしていて、雫と聖司たちの恋愛にも影響を与えるというポジションを担っていたのですが、アニメ版ではそれが一切描かれていません。
★「カントリーロード」の作詞は鈴木氏のお嬢さん?
本作で北(きた)役で声を演じたスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーのお嬢様である鈴木 麻実子さんが18歳の時に、父である鈴木プロデューサーの一言をきっかけにして主題歌「カントリー・ロード」の日本語詞を書いたそうです。
★アニメ版ではムーンが黒猫?!
図書館に雫が行くのに乗った同じ車両に乗り込んできた猫・ムーンですが、漫画版ではムーンとルナという黒い猫が登場します。
そのため見た目だけに限って言えば、アニメ版の猫はスタジオジブリのオリジナルということになります。漫画の画像が少し前にありますが、黒猫も表紙になっているのがお分かりになると思います。
★ムーンは「猫の恩返し」にも登場
ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんがジブリの作品である「猫の恩返し」(2002年)も本作と同じ柊先生の作品を原作に持つジブリ映画なんですよ。
ストーリー的には、雫が書いた小説という位置づけになっているために、主要キャラクターには「ムタ」(「耳をすませば」の中でムーンと呼ばれる猫)さんや、地球屋の置物として雫が魅了されたバロンも登場しています。
★「カントリーロード」の曲は原作には出てこない
主題歌であり、本作のイメージと言えば?と言われたら必ず思い浮かぶ曲である「カントリーロード」。しかし、アニメ版とは違い漫画版の原作いはこの曲は一切登場しないアニメ版のオリジナルの演出となっています。
その他にもトリビアが満載です。例えば、雫が図書館の本棚で本を探していると、手に取ろうとする本の目の前の棚には「となりのトトロ」の本が斜めになって棚の中にあったりします。
そして、図書館の中で天沢聖司が読んでいた本ですが、タイトルが「霧のむこうのふしぎな町」とあります。実はこの本は、ジブリの作品でもある「千と千尋の神隠し」に影響を与えたと言われている本です。
そして、バロンを製作しているシーンの左側の方には中トトロと小トトロの姿が棚の中に・・・。こんな風にジブリもディズニー作品と同じようにオマージュがある感じですよ。ぜひこの点も注意しながら見てみてみると違った楽しみ方が出来るかもしれませんね。
「耳をすませば」キャラ&声優
それではキャラクターと声を担った方々を簡単にご紹介していきます。
月島雫(つきしま しずく)役/本名陽子
主人公で、向原中学校3年生の14歳。読書が大好きで、図書館や学校の図書室に頻繁に行って本を借りている。雫が図書館で借りてきたすべての本の図書カードに「天沢聖司」という名を見つけ想いを巡らせる。
その後、彼に出会って彼がすでに将来の夢を描いていることを知ったために、自分の夢は何なのか模索する中で、文章を書くという才能を試してみようと映画と物語を書き始めることに・・・。
そろそろわたしの名前もハッシュタグにいれてほしいな… https://t.co/vfI5ICALSf
— 本名陽子☺︎喧嘩独学見てね (@honnayoko) January 11, 2019
~本名陽子さん 代表作品~
「おもひでぽろぽろ(岡島タエ子)」
「ふたりはプリキュア」(美墨なぎさ / キュアブラック)」
「恋する天使アンジェリーク シリーズ(エンジュ)」
「機動戦士ガンダム00(スメラギ・李・ノリエガ))
「ダンボール戦機WARS(キャサリン・ルース)」
「平穏世代の韋駄天達(ブランディ)」
天沢 聖司(あまさわ せいじ)役/高橋一生
雫と同じ向原中学校3年生で、15歳の地球屋の主人西司朗の孫。読書が大好きで成績優秀な少年。ヴァイオリン演奏が得意で、将来はヴァイオリン職人になりたいという夢に向かって留学を検討している。
さわやかな聖司さんの声を演じたのは、今をときめく高橋一生さん。当時の収録から1週間後くらいに声変わりが始まったんだそうです。声変わり前の奇跡のようなタイミングで収録されていたんですね。#kinro #耳をすませば pic.twitter.com/hPNEnGa7fe
— アンク@金曜ロードショー公式 (@kinro_ntv) January 27, 2017
~高橋一生さん 出演作品~
映画「シン・ゴジラ」「るろうに剣心 最終章 The Beginning」、ドラマ「カルテット」「岸辺露伴は動かない」「天国と地獄〜サイコな2人〜」「インビジブル」など沢山の映画やドラマに出演しています。この作品で聖司役を演じた撮影当時、14歳という年齢だった高橋一生さん。この撮影が終わった1週間後くらいに声変わりをしたそうですよ。
月島 靖也(つきしま せいや)役/立花隆
市立図書館勤務の図書館司書である雫の父。雫の一番の理解者。(画面奥の人物)
~立花隆さん プロフィール~
ジャーナリスト、ノンフィクション作家、評論家である立花隆氏。多岐にわたり執筆した多くの著書がベストセラーとなっています。「知の巨人」のニックネームを持っています。『文藝春秋』に「田中角栄研究~その金脈と人脈」を1974年に発表して田中金脈問題を暴いて田中角栄首相退陣のきっかけを作って、ジャーナリストとして不動の地位を築いた人物です。
月島 朝子(つきしま あさこ)役/室井滋
社会人学生として、大学院(修士課程)に通っている雫の母。(画面向かって左側)
~室井滋さん 代表作品~
早稲田大学在学中に「風の歌を聴け」(1981年)でスクリーンデビューした室井滋さん。映画「居酒屋ゆうれい」「のど自慢」「OUT」「ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~」などで映画賞を多数受賞しています。女優の他にもエッセイストとしても活躍しています。ディズニー映画「ファインディング・ニモ」のドリーの吹き替えなどでも知られています。
月島 汐(つきしま しほ)役/山下容莉枝
大学一年生の雫の姉。(雫の隣にいる人物)
~山下容莉枝さん 代表作品~
1992年まで劇団で活躍していた山下容莉枝さん。その後は、テレビドラマや映画に活躍の場を移すことになります。2時間ドラマや、野島伸司脚本での作品に多数出演しています。NHKでも大河ドラマ「武田信玄」「元禄繚乱」、連続テレビ小説「春よ、来い」「天花」「瞳」、スーパープレミアム「八つ墓村」などに出演し、ジブリ作品も「おもひでぽろぽろ(岡島ナナ子)」「平成狸合戦ぽんぽこ(お玉)」などにも出演しています。
フンベルト・フォン・ジッキンゲン男爵役/露口茂
地球屋の主人である西司朗がドイツに留学していた際に、頼み込んで貰い受けてきた猫の人形。雫が書いた物語の主人公。雫が書いたという設定の『猫の恩返し』にも登場しています。
~露口茂さん 出演作品~
日本テレビ放送「太陽にほえろ!」に山さん役で刑事・山村精一役で知られている露口茂さんです。その後も沢山の映画やドラマに出演しています。現在は、俳優業は引退状態になっています。
西 司朗(にし しろう)役/小林桂樹
地球屋の主人で、聖司の祖父。バロンの持ち主。
~小林桂樹さん 出演作品~
生涯において253本の映画に出演した小林桂樹さん。第13回毎日映画コンクール主演男優賞を受賞し、その後も沢山の賞を受賞しています。「わんわん物語(ノラ公(トランプ))」「バンビ(とんすけ)」などディズニー作品にも出演しています。
北(きた)役/鈴木敏夫
「カントリー・ロード」を演奏した際、リュートを弾いていた西 司朗の友人。(画面向かって左側の人物)
~鈴木敏夫氏プロフィール~
宮崎駿の「風の谷のナウシカ」で製作に携わり、スタジオジブリの設立にも参加した鈴木敏夫さん。「となりのトトロ」「火垂るの墓」「魔女の宅急便」「君たちはどう生きるか」など沢山のジブリ作品の製作にも関わっています。
南(みなみ)役/井上直久
「カントリー・ロード」を演奏した際、タンバリンを叩いたり、コルネットやリコーダーを吹いたりしていた西 司朗の友人。(画面向かって右側の人物)
~井上直久氏プロフィール~
心の中にある風景を「イバラード」と名付けた画家である井上直久氏。スタジオジブリ制作アニメである「耳をすませば」の挿話「バロンのくれた物語」で井上氏の世界観が紹介され話題となりました。その他にも「星をかった日」(原作:井上直久)の短編アニメが宮崎駿監督によって制作され、ジブリ美術館の「土星座」で上映され国内以外にもパリやニューヨークでも個展を開催して人気となっています。
Naohisa INOUE 井上直久 (@iblard_INOUE)
高坂(こうさか)役/高山みなみ
雫やらが通っている向原中学校の保健室の先生。
~高山みなみさん 代表作品~
高山みなみさんと言えば、「名探偵コナン」の江戸川コナン役をや、「魔女の宅急便」のキキ役、「忍たま乱太郎」の猪名寺乱太郎役、「ドラえもん」のスネ夫のママ役などの大人気作品のキャラクターを沢山演じていることで知られています。
原田 夕子(はらだ ゆうこ)役/佳山麻衣子
雫と同じ中学に通う雫の親友。
~佳山麻衣子さん プロフィール~
声優だけではなく舞台でも活躍していた佳山麻衣子さん。舞台「サウンド・オブ・ミュージック」でデビューしているのですが、その当時の年齢は小学6年生だったそう。本作の夕子役もオーデイションで選ばれたそうですよ。その後も舞台y、テレビドラマに出演していたのですが、2000年以降は芸能のお仕事をしていないようです。
杉村(すぎむら)役/中島義実
雫の同級生の野球部所属の男友達。
この他にも
★夕子の父役/中村晴彦さん
★雫の友達の絹代(きぬよ)役/飯塚雅弓さん
★雫の友達のナオ役/千葉舞さん
★担任の先生役/岸部シローさん
★数学の先生役/笛吹雅子さん
★ストーリーの中のテレビの野球放送で解説者役/江川卓さん
★実況アナウンサー役/小川光明さん(元日本テレアナウンサー)
などがキャラクターの声を担っています。
海外版の声優さん
そして、海外版の声優さんもお名前だけ簡単にご紹介しておきます。ご興味のある方は英語の勉強にもなりますので、海外版もご覧になるのもありかもしれませんよ。声を担当した方々の横には代表作品なども1つだけですがご紹介してあります。
~海外版の声優~
★月島雫役/ブリタニー・スノウ(『ピッチ・パーフェクト』シリーズ)
★天沢聖司役/デヴィッド・ギャラガー(『SUPER8/スーパーエイト』)
★月島 朝子役/ジーン・スマート(『24 -TWENTY FOUR-』)
★月島 聖也役/ジェームス・シッキング(『ブルックリン74分署』)
★フンベルト男爵役/ケーリー・エルウェス(『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』)
★西 司朗役/ハロルド・グールド(『スティング』)
★原田夕子役/アシュレイ・ティスデイル(『ハイスクール・ミュージカル』シリーズ)
★高坂先生役/ヴィッキー・デイビス
★杉村役/マーティン・スパジャー
★月島志保役/コートニー・ソーン・スミス(『アリーmy Love』)
★キタ役/ウォーカー・エドミストン(『FBI/アメリカを知りすぎた男』)
★ミナミ役/コーリー・バートン(『ピーター・パン2 ネバーランドの秘密』フック船長役)
まとめ
いかがでしたか?知ったら数倍楽しめるトリビアもご紹介しましたので、次回ご覧になられ時にはその点も注意してご覧になるのも楽しいかもしれませんね。コピーライターとして一世を風靡した糸井重里氏による本作のキャッチコピーは「好きなひとが、できました」。この言葉の通り、思春期の少年や少女たちが初めて経験する恋や、将来の進路の悩みなどが描かれている不屈の名作である「耳をすませば」をぜひご覧になられてみてください。