映画『ノマドランド』が描く人間のリアル
『ノマドランド』では、ノマド生活者を描く作品です。
主人公ファーンの視点で、それまでの固定観念を出会う人々を通してじわじわと砕いていく様を描いています。
これまでの映画では描かれなかった、人間の生活としてのリアル。
これを細部まで切り取り描く、クロエ・ジャオの感性は圧巻!
そんな、1人の人間があるべき本当の姿を描いていきます。
生きる為に必要なこと
人は生きる為に、仕事をしなくてはなりません。
どんな状況であり、仕事をし、お金を得る必要性があるのです。
それはどんな方法であれ、生きるために必要なこと。
ファーンは、仕事に依存することで、自分の境遇を誤魔化している面がありましたが、それでも仕事を持つことの意味を伝えています。
ファーンのこだわり
ファーンは仕事を続ける限り、いつかは元の生活に戻れるかもしれないという淡い期待を捨てきれませんでした。
貸倉庫にかつての荷物を置き、仕事を続けるための方法を模索し続けています。
しかし、Amazonの仕事は季節による繁忙期のみであり、非常に難しい現状に晒されてしまうのでした。
その結果、ファーンはそれまでのこだわりを捨て、Amazonの仕事で出会った女性に誘われたノマド生活者たちの集会にいくことにします。
これは、自身のこだわりを人との出会いによって変えられたという、ごく自然の出来事です。
誰しも必ず経験したことがある、人の出会いによって自分のペースがいい方向に転んでいく、そんな当たり前の光景を描いていました。
出会いと共に
ファーンは、ノマドの集会に出て、自身の生活について考えるようになります。
いろんな人々と出会うことで、それまで自分の考えていたことを改めるきっかけとなっていくのです。
それまでは働くこと、普通の人生に対してのこだわりが、ノマド生活をしていく中で、またそれまでとは違ったこだわりになっていくのです。
働くことではなく、人としてのあるべき姿、その本質に気がついていくことになります。
最初の出会いは、Amazonの仕事の同僚。
彼女の誘いで、ノマド生活者の集会に出ることに。
その後、デヴィッドやスワンキー、ボブなど様々な人と出会い、それぞれのスタイルがあり、それぞれの生き方があるという事が、ファーンにとって大きな影響を与えていくのです。
ファーンの出した答え
最終的に、ファーンは選択を迫られます。
友人で、仲の良い男性から一緒に暮らさないか、と申し出を受けるのでした。
その場所は素晴らしい場所で、家も大きく、幸せな暮らしが目の前にあったのです。
これは、もったいないくらいに素晴らしい申し出でした。
そこで、ファーンが下した決断。
それは、このままノマド生活を続けること。
この、絵に描いたような幸せが、ファーンには怖かったのでした。
それは、これまでに経験した様々なファーンの人生の重みが重なった結果の決断です。
当然、人によってこの決断が正解とは思えない人も居るでしょう。
しかし、ファーンは選んだのです。
ノマドでいるという事を。
この決断の裏に、どんな葛藤があったのかは、当の本人にしかわかりませんが、彼女はノマドという生き方を選び、物語は幕を閉じるのでした。
まとめ
この『ノマドランド』という映画は、1人の女性を通して体感する、人間の生き方の意味を描いた作品です。
何かをしなくてはいけない、何ができる?
という、生きる上で感じる使命感。
人間ならば誰しもが、漠然とでも考えたことはあるのではないでしょうか?
しかしこの映画は、それを否定し、生きる事、生きている事、この素晴らしさを伝えるものだったのです。
人の生き方に決まりはありません。
何をしてもいいのです。
ファーンの様に。
しかしそこには、壮絶な経験のもと下した決断であり、自由を選んだファーンにとってもそれは、決して楽な生活ではありません。
全ては自己責任のもと。
あなたはこれからの人生、どのように生きていきますか?
そんな問いかけが、この映画を観てされた様な気がします。
人生においてのリアル、それがこの映画の最大の特徴なのかもしれません。
最後に、この主人公ファーン。
ファーンという名前は、フランシス・マクドーマンドが漠然とノマド生活に憧れていた時に改名しようとしていた名前です。
60代半ばを迎えた時、ファーンという名前に改名し、ノマド生活に憧れていたマクドーマンド。
この映画は、そんな人たちノマド生活者を演じた中には、実際のノマド生活者も多数出演しています。
スワンキーやボブなど・
そしてこの作品は、役名はありますがそのほとんどは実名登場、というのも面白いところ。
最後のエンドロールにも注目してご覧いただきたいです。
役名と演者の名前が、ほとんど同じなのです。
異なる名前の人がいるならば、それは役者ということ。
そこまでも徹底してリアルを追求している、それがこの『ノマドランド』の魅力のひとつなのです。