『宮本から君へ』とにかく熱い!愛する人のため、そして自分のために究極の戦いに挑む男を描く!

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新井英樹原作の同名漫画はバブル崩壊前に連載が始まった伝説的作品です。

自分がどうなりたいのか見いだせない宮本浩という24歳の営業マンが、恋愛や仕事を通して成長していく…という話かと思っていると最後は予想もつかない場所に着地する漫画です。

特に終盤のとある展開には全国の読者が衝撃を受け、そして読者が選ぶ嫌いな主人公で宮本浩が選ばれてしまうほどこの漫画は荒れました。

後から読んだ身としてもそうなるのは納得です。 これはキツい。

そんな『宮本から君へ』は長年各所で映像化の話が出ていましたが、ついに2018年、『ディストラクション・ベイビーズ』(16)の真利子哲也監督が原作の前半部分を全12話×30分の連続ドラマとして映像化。

そして2019年9月27日からドラマからのキャスト続投で映画版『宮本から君へ』が公開されました。

『宮本から君へ』が大勢の人から嫌われる理由となった終盤の衝撃的エピソードを完全実写化したすさまじい作品です。

『宮本から君へ』の作品情報

監督:真利子哲也
脚本:真利子哲也 、港岳彦
出演:池松壮亮、蒼井優、井浦新(ARATA)、一ノ瀬ワタル、柄本時生、星田英利(ほっしゃん。)、古舘寛治、ピエール瀧、佐藤二朗、松山ケンイチ

(2019年9月27日公開)

映画『宮本から君へ』のあらすじ

文具メーカー”マルキタ”の営業マン宮本浩は、年上の自立した女性中野靖子と交際を始める。

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靖子には女たらしの元カレ裕二がおり、ある晩彼女の家に押し入ってくるが、宮本は裕二に向かって「この女は俺が守る」と言い放った。

幸せな日々を送っていた宮本だったが、ある日仲良くなった取引先の真淵部長と大野部長に誘われて靖子と一緒に飲み会に参加したことでその日常が崩壊する。

真淵の息子で大学ラグビーのスターである拓馬が飲み会に合流。

飲み会で勢いで一気飲みを繰り返した宮本は泥酔、宮本と靖子は拓馬に家まで送り届けてもらう。

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しかし、宮本が眠りについたのを見た拓馬はそれまで談笑していた靖子に襲い掛かり、彼女を犯した後に立ち去った。

その間ずっと眠りこけていた宮本に靖子は愛想を尽かして怒り狂い彼を追い出そうとする。

宮本は自分が許せないと憤り、真淵拓馬に復讐しようと挑むも一瞬で返り討ちに会ってしまう。

ぼろぼろで前歯まで失った宮本は、靖子にも会えずにいた。

そんなころ、傷ついた靖子の前に裕二が現れる。

靖子は実は妊娠しており、それがタイミング的に宮本の子か裕二の子かわからないという。

裕二は宮本にそのことを伝え、堕胎させた方がいいというが、宮本はそれを聞いて、一念発起し、逆に靖子の元へ行って求婚する。

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しかし靖子は取り付く島もないくらいに宮本の求婚を断った。

だがそれでも宮本は止まらず、自分のため、靖子のため、決死の覚悟で真淵拓馬と再度の勝負に挑む。

映画『宮本から君へ』の見所

この映画はとにかく圧倒的な熱量に満ち溢れています。

映画としての作りは正直不親切な部分もあります。

宮本がどんな人間なのか、会社ではどんな立場か、どこでどうやって靖子と知り合ったのか、なぜ宮本は真淵や大野と意気投合したのか、ドラマや漫画を見ていないと最後まで分かりません。

しかしそれでもこの映画は見る人をぐいぐい引き込んでいきます。

どんな人間かわからなくても、スクリーンにいる登場人物たちが生身の実在する人間としか思えないくらい演技、演出の熱量が凄まじく、生々しい部分も逃げずに描いているからです。

キャストはみなそれぞれのベストアクトではないかと思うくらいの名演を見せます。

特に靖子役の蒼井優は拓馬にレイプされている時の表情、その後の宮本を責める時の叫び、目の鋭さ、考えるより手が先に出ているのがわかる取り乱した様子の表現など、凄まじい演技です。

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そして普段は低血圧で冷静な男を演じることが多い池松壮亮は、激情をぶちまけ、周りの事も考えず突っ走る主人公宮本を共感できなくなるギリギリのところで演じていました。

あらすじではざっと書いただけですが、見ていても宮本の行動をすべて理解できて肯定できる人は少ないのではないかと思います。

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しかしその共感出来なさが新井英樹先生や真利子監督の狙いでもあります。

宮本は人間の未熟な部分や、譲れない頑固な部分、わがままな部分の象徴のようです。

だから突っ走る宮本を見るとみんな居心地が悪くなります。単に応援したくなる存在ではないんです。

宮本は劇中で何度も叫ぶ通り、靖子を心の底から愛しています。それは命がけの行動からわかります。

しかしそれで彼がとる行動は靖子に寄り添うことではなく、自分のプライドをかけて拓馬に戦いを挑むこと。

結局愛というのはエゴだとこの映画は語っています。

なぜ拓馬に戦いを挑むのかというとおそらく未熟な自分にケリをつけるためではないでしょうか。

それゆえにポスターにも書いてあるとおり、宮本はこの戦いに負けるわけにはいかないのです。

ぜひドラマも見ていただきたいのですが、宮本はドラマシリーズの終盤で競合他社とのコンペで自分のやり方を貫き通しつつ、負けてしまいます。

その時、彼は勝ち負けよりも自分のスタイルをやり抜いたことに満足していました。

それはまだ宮本が本気で戦っていなかった証です。

佐藤二朗演じる大野部長(佐藤二朗もキャリア最高レベルの素晴らしい演技です)が、圧倒的実力差の拓馬への復讐に燃える宮本に「勝てない勝負に挑む人ってのは卑怯なんだよ」と言う場面があるのですが、結局結果よりも過程にこだわる宮本は自分に酔っているだけだと突きつけるシビアなセリフです。

しかしドラマと違って宮本はどんな手段を使ってでも執念で拓馬に勝とうと必死のもがきを見せます。原作でも名場面と名高い非常階段での宮本と拓馬の決闘は危険なスタントも池松壮亮と一ノ瀬ワタルが自分で演じており、かなりの再現度です。それは全くかっこいい戦いではありません。正直描写だけならドン引きするかもしれません。

しかしなりふり構わず、自分のため、そして靖子のために自分を変えてために勝とうとする宮本の姿に涙が止まりませんでした。

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もちろんその戦いを経ても宮本が完璧に成長するわけではありません。彼は最後父親となり、人生のスタート地点にようやく立ったように見えます。

宮本は終盤に血まみれになりながら靖子に「俺の人生バラ色だからよ」と笑ってみせるのですが、そうなるかはわかりません。というかとてもそうは見えないのが宮本の実状です。

そして映画はとある宙ぶらりんな状態で終わりを迎えます。漫画ではラストページで靖子が宮本を賛美するとあるセリフを言うのですが、映画ではなくなっています。

今の時代、宮本のような人間が受け入れられることはあまりないかもしれません。しかし彼は「これが俺だ。こういう生き方しかできない」と全身で、行動で提示してみせました。その姿勢だけは誰しも胸を打たれるのではないでしょうか。

そして新井英樹先生が大ファンで主人公の名前に使ったというエレファントカシマシの宮本浩次の新曲『Do You Remember?』が流れ映画は終わります。

熱量が凄い映画ですが、決してバランスが取れた万人向けの映画にはなっていません。歪でゴツゴツした映画といえばいいのでしょうか。

しかしラストの歌も含め、とにかく熱い、「宮本から私たちへ」のメッセージははっきり伝わってきます。

ぜひ劇場で見て、打ちのめされてください。

見たらいてもたってもいられない気分になりますよ(笑)。

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