映画【コリーニ事件】のネタバレ!ドイツの負の遺産「法の歪み」を法廷に叩きつける!

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ドイツ屈指の敏腕弁護士、加えてドイツを代表する小説家でもあるフェルディナント・フォン・シーラッハ。これまで『犯罪』『罪悪』などの社会派ミステリー小説を発表してきましたが、それらは彼自身が弁護士として携わった事件がモデル。「この設定、リアリティーが〜」なんて読書ファンが一発で黙る説得力ですよね。筆者も沈黙。

……本記事では、シーラッハによる初の長編小説を映像化した映画『コリーニ事件』のあらすじを、ネタバレ付きで語っていきます!本原作、発売当時日本で本屋大賞翻訳小説部門で1位を獲得しています。ところが、ドイツでは本屋大賞どころの騒ぎではなく……。

映画『コリーニ事件』の予告動画がこちら!

ミステリー好きには堪らないであろう知的な予告動画。表向き、鑑賞者が謎解きを楽しめる法廷サスペンスの雰囲気です。ただ、本作『コリーニ事件』は、第二次世界大戦でのナチスの凶行、ドイツの翳りに焦点を当てているのです……。

「社会派か〜」という感じですが、ドイツ国民はこれまで十分過去の過ちについて省みてきたと言われています。しかし、本作の発表により法の抜け穴を炙り出されたドイツの法務省は、法改正のため動くのです。この、国が動いたという事実を鑑賞前に知っておくと、より一層『コリーニ事件』のストーリが楽しめるはず……!

くどいようですが、ドイツは決して国が犯した罪に背を向けず向き合ってきました。その贖罪の歴史すら歪める大きな抜け穴に気がついた時、認める勇気が必要なわけで……。

映画『コリーニ事件』のキャストを紹介!

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映画『コリーニ事件』のネタバレに移る前に、本作のキャストをサラッと紹介していきます!謎解き要素が強いため、沈黙や混乱のシーンが多い本作、実力派俳優の鬼気迫る演技が求められますが……。配役、かなりグッドですよ……!

エリアス・ムバレク

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3ヶ月前に弁護士デビューしたばかりの新人、カスパー・ライネンを演じるのがドイツ人俳優エリアス・ムバレク。彼は、原作者シーラッハのファンで全ての作品を読破しているのだとか。

【代表作】
『ゲーテなんてクソくらえ』(2013)
『ピエロがお前を嘲笑う』(2014)
『はじめてのおもてなし』(2016)

ハイナー・ラウターバッハ

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新米弁護士ライネンの師匠筋の弁護士、リヒャルト・マッティンガーを演じるのは、ベテラン俳優ハイナー・ラウターバッハ。ライネンが弁護する被告人を追い詰める役どころで、法律の草案にも携わるほどの大御所。新米弁護士のライネンでは圧倒的なキャリア差がありますね……。

【代表作】
『ふたりのロッテ』(1994)
『カスケーダー』(1998)
『はじめてのおもてなし』(2016)

フランコ・ネロ

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ドイツで慎ましく暮らすイタリア人、ファブリツィオ・コリーニ、彼が本作の事件の被告人です。演じるのはフランコ・ネロ。ほとんど言葉を発しない役ながら、本作では圧倒的な存在感を放っています。

【代表作】
『続・荒野の用心棒』(1966)
『天地創造』(1966)
『ガンマン大連合』(1970)
『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)
『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017)

映画『コリーニ事件』のあらすじをネタバレ!

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さて、キャストの紹介のあとはいよいよ、本作『コリーニ事件』のあらすじをネタバレ付きで紹介していきます!

ナチス時代のドイツの負の遺産がテーマである本作。日本人からすると正直、外野の話みたいなところがあると思うんですね。本作は、史実以上に当事者の感情にフューチャーしているのが最大の特徴。「こんな世界もあるんだ……」って、ちょっと間抜けな感想ですが、筆者は呆然としました。

新米弁護士ライネンに殺人事件の大仕事が舞い込む

ドイツで弁護士になって3ヶ月の新米弁護士ライネン。彼は殺人事件の国選弁護人に任命されます。弁護士になって初めての大きな事件、張り切りライネンです。

ライネンが弁護する被告人は、30年以上ドイツで暮らしている67歳の老人。イタリア出身のこの老人コリーニは、移民ではありますがいわゆる模範的市民でした。そんなコリーニが殺害したのは、経済界の大物実業家。しかもわざわざホテルのスイートルームに乗り込んで殺害、返り血をつけてフロントで自首したというのですから普通ではありません。

被害者はライネンの幼少期の恩人……。

このスイートルームで殺された実業家、マイヤー。彼はドイツ有数の機械工業の社長でもありました。この被害者、ライネンの少年時代の恩人だったのですから、世間は狭い。

マイヤーはライネンが恋心を抱いていた幼なじみの祖父であり、父親に見放され、複雑な家庭の事情を抱えたライネンを支えてくれた育ての父のような人物だったのです。実は、ライネンが弁護士になろうと志を持つことができたのも、被害者マイヤーの後押しがあってのことでした。

弁護士の務めを果たそうとするライネン。そして被告は……?

とはいえ、ライネンは被告人側の弁護士。彼の仕事はコリーニの弁護なのです。せめて殺害の動機を知りたいライネン。人格者であったマイヤーが殺された理由を知ることは、弁護する上ではもちろんライネンの心を整理するためにも必要なプロセスに違いありません。

しかし、コリーニはひたすら黙秘。弁護人であるライネンにすら、事件のことを語りません。コリーニにとって不利でしかない黙秘。何か理由があるはずです。

そこに、被害者遺族側の弁護士マッティンガー。彼は、コリーニを謀殺罪で起訴して終身刑(つまり最高刑)にしようと考えていることをライネンに明かします。ライネンは供述すれば減刑できるとコリーニに訴えますが、コリーニは黙秘を続けます。

殺人の凶器に見覚えが……殺人の動機を知るためイタリアへ飛ぶ

被害者のマイヤーを慕いながらも、自分に舞い込んできた大仕事をやり遂げたい、間に揺らぐライネン。弁護に行き詰まるライネンは、殺人の凶器に“ワルサー P38”が使われたことを知ります。この銃は、現在では手に入らない年代物。なぜコリーニはこんな古い銃を使ったのか……?

さらにこの銃、ライネンが子供の頃に被害者マイヤーの書斎で見かけた銃でもあったのです。「これ絶対手がかりじゃん!」。ライネンは、裁判の猶予を願い出ます。4日間の猶予をもらい、コリーニの生まれ故郷であるイタリアへ向かうのです。そこでライネンは衝撃的な事実を知ってしまいます……。

ドイツに翳る「不都合な真実」が事件を生んだ

1944年6月、イタリアで何が起こったのか。有名実業家、そして人格者であったマイヤーは、実は大戦中「ナチスの将校」だったのです。コリーニはナチスの将校であったマイヤーにより父親を殺された過去がありました。つまり、一連の事件はコリーニが老いてもなお果たしたいと考えるほどの強烈な復讐だったわけです。マイヤーは大戦中、多くのユダヤ人の虐殺を指示しました。しかし戦後罪に問われることはなく……、なぜか?これこそが、ナチス征服下での理不尽な法律の歪みによるものだったのです。

裁判でこのことを告げるライネン。コリーニ被告の殺害動機を知り、法廷は静まりかえります。しかしここで、遺族側の弁護士マッティンガーは、1968年にコリーニが姉と共にマイヤーを戦争犯罪者として告発していたこと、それが翌年に退けられていたことを明かします。

マイヤーは確かにナチスの将校でした。しかし彼は、女性や子どもは殺さなかった。さらに当時の「虐殺行為」は、幹部の命令であったことや、終戦から20年経っての告発から「時効」が成立したのだというのが、マッティンガーの主張。被害者マイヤーには、復讐されるような罪は無いと続けます。確かに、一度訴えが退けられていたら、罪人とは認められません……よね。感情がどうあれ、法廷では……。

法の歪みを法廷で訴える!新米弁護士の健闘

マッティンガーの弁舌で不利になったライネン。ライネンは次回の公判で、「ドイツの法制史に関する証人」としてあろうことか相手側の弁護士であるマッティンガーを指名します。そしてその日、証言席に座るマッティンガー。

ライネンは、1968年に当時の刑法局長が起草した、「秩序違反法に関する施行法」について質問します。この年、マッティンガーは弁護士資格を得た新米弁護士でした。

謀殺幇助者は、全て故殺とみなす法律、通称「ドレーアー法」。ここでいう謀殺幇助者とは、ナチスの虐殺に加担した人々のこと。故殺には時効があり、15年。ナチスに加担した者を守る法律により、マイヤーは実刑を免れたのです。しかも、ドレーアー法の起草を決める会議には、当時新米弁護士であったマッティンガーも出席していたことを、法廷で追及されます。

映画『コリーニ事件』の結末は……?

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ギリギリに追い詰められたマッティンガー、「当時の法律では合法だった」と反論します。確かに。

「では、今の観点ではどうですか。マイヤーの不起訴は正当だったのでしょうか」。ライネンがマッティンガーに問います。否、ドイツ国家に問うシーンです。マッティンガーは、しばらく沈黙し一言「違う」。

ドレーアー法の過ちを、国を代表する弁護士が認めたのです。どよめく法廷、審理は終わり、いよいよ明日判決が下されます。黙っていたコリーニでしたが「死者は報復を望まない」と、ライネンに握手を求めます。とぼとぼと拘置所に戻る老人の背中……。

そしてコリーニは、判決の前に自殺します。判決は下されることなく、裁判は終わりを迎えるのです。

どうでしょうか。多分、コリーニは有罪ですよね。殺人は法治国家において罪、なのです。ただ、情状酌量という言葉も確かに存在するわけで……。コリーニが復讐したかったのは、マイヤーでもあり、都合よくねじ曲げられた憲法そのものだったのではないでしょうか。ライネンがマッティンガーに過ちを認めさせた時、コリーニの復讐は初めて完了したように思うのです。

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