映画【ヘイター】のネタバレ!Netflixがキレた!この“惨めさ”と“嘲笑”あなたにも身に覚えがある

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劇場未公開ながらNetflixで配信され、名作の呼び声が高まっている映画『ヘイター』。ポーランド制作のサスペンス映画で(ジャンル的には「デジタル・クライム・サスペンス」というらしい!)、格差社会問題がベースになったセンシティブな内容です。

高評価の社会派映画」という前フリでワクワクと観賞した筆者、前半でもうチンプンカンプン。連日の暑さで頭がものすごく悪くなってしまったのかとひとり怯えながらも、先に「ポーランドの現状」について調べたところ、単純に筆者が不勉強なだけでした……。本作が大変に攻めた映画であること、そしてよくわからなかったシーンの意味、高評価の理由全てが附に落ちました。

ポーランドのみならず、2020年の世界の閉塞感を浮き彫りにしたストーリー。本記事では、映画『ヘイター』のあらすじをネタバレ付きで紹介していきます!

Netflixオリジナル映画『ヘイター』がジワジワきている

まず本作『ヘイター』の背景、ポーランドという国はレイシズム(差別主義)の蔓延が問題視されています。問題視とはポーランド国内でというよりも、特に他のヨーロッパ諸国から「どうなの?」と指摘されているのだそう。つまり、ポーランド国内では差別主義者の声が優勢であるというのが現状なのです。

具体的には難民の受け入れへの猛反発同性愛者への差別。特にLGBTQについては、大統領がはっきりと「共産主義よりも破壊的なイデオロギーである」と発言し、全否定しています。全体に見ても排他的な思想を支持する国民が多く、与党も同じ指針であることから何度選挙を行っても政権が動くことはなく……。ポーランドでは差別主義を正義とする政権がどんどん勢力を増しているのです。

この現状を風刺して問題提起するために作られた映画こそ、今作『ヘイター』。本作の撮影も終わり、公開プロモーションを控えた2019年1月に事件が起こります。ポーランド・グダニスク市長パベウ・アダモビッチが、イベント中にナイフを持ってステージに乱入してきた男に刺され死亡したのです。殺されたぺバウ市長が数少ないリベラル派であったこと、そして彼は同性愛者でもありました。さらに犯人は極右のレイシスト。

このショッキングな事件と共通する設定がいくつもあった映画『ヘイター』。さらにコロナ禍の影響もあり国内での公開は延期されたのち、今回Netflixでの全世界配信が行われました。

映画『ヘイター』のキャストを紹介!

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ポーランドの映画ということで国内の実力派俳優を起用していて、世界的に知られるキャストは登場しない今作『ヘイター』。ただ、主演の若手俳優さんが『ジョーカー』超えの怪演をしていたので、彼だけサラリと紹介していきますね……!

トマシュ役/マチェイ・ムシャウォウスキー

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田舎の貧しい家庭から法学部への進学のために都会に出てきた青年、トマシュ。生まれの不利を感じさせないほど成績優秀、しかも真面目な学生。ところが彼の論文が盗作であると指摘され、大学を退学になるところから物語は始まります。優秀な苦学生である彼に、裕福なクラジュキ家はスポンサーとして奨学金を援助していましたが……。

トマシュ役のマチェイ・ムシャウォウスキー、彼の顔の演技がとにかく素晴らしく、派手な動きの無い展開でもグッと引き込まれます。自分の境遇を相手と比較するときの惨めな表情、隠しきれない凶悪、思わず素で出る嬉しげな顔など、どれも完璧。

映画『ヘイター』のあらすじをネタバレ!

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作品とキャストの紹介のあとは、いよいよ映画『ヘイター』のあらすじをネタバレ付きで紹介していきます!

ポーランドの闇、というか現代社会の闇。自由とモラルの価値観をひとりひとりが改めて見つめ直さなければならない局面に私たちは立っているのではないでしょうか。

田舎出身の苦学生トマシュ、困る

大学の図書館では学生たちが各々の課題に取り組んでいます。真面目で勤勉、田舎から法学部に進学したトマシュ青年もそのひとり。彼は突然、学部長から呼び出しを受けてしまいます。

トマシュの提出した論文に盗用があったという指摘を受けるのです。「引用符をつけ忘れただけです」と答えるトマシュ。しかし大学の判断は厳しいもので、「間違いなく盗用」と言い渡されてしまいます。

「退学は困ります」と必死に訴えるトマシュ。何か理由がありそうな切実さ。しかし無慈悲にも、彼の除籍処分は決定してしまうのでした……。

“格差”を痛感する団欒。誰しも身に覚えが……

その晩、トマシュは学費の援助をしてくれているスポンサーの一家と夕食を共にしていました。裕福なクラジュキ家の面々と、にこやかに会話するトマシュ。今日の出来事はスポンサーである彼らには伝えないつもりのようです。

クラジュキ夫妻、そして娘のガービはトマシュと同じ大学に通っていて、トマシュは彼女に好意を寄せています。彼らはトマシュのことを愛称で呼び、礼儀の正しさを褒めます。トマシュもそれに柔らかく応対し、夫妻に苺ジャムをプレゼント。絵に描いたような団欒。そしてトマシュは「長居してはご迷惑ですから」なんて言いながらクラジュキ家をあとにします。

さて、トマシュが帰った後。クラジュキ一家は途端にトマシュのことを馬鹿にしはじめました。「エビを食べるのに苦労していたぞ」なんて、貧乏な田舎者だと笑うのです。しまいに苺ジャムを雑に使用人に渡してしまい「苺ジャムって……!」とクスクス。

トマシュ、全部聞いています。あえて置き忘れたスマホに全ての音声を録音していたのです。何食わぬ顔で「スマホを忘れた」と戻り、回収。録音を聴きながら彼は寮に帰ります。どうやら彼、只者ではないようです。

搾取された前職を辞め、新しいビジネスを

まともに給料をもらえない仕事を辞め、新しい仕事を見つけたトマシュ。なんだか胡散臭く、動画配信者を攻撃して妨害する目的の会社のようです。手始めに、フィットネスの動画を配信している若い女性を妨害する計画をプレゼンするトマシュ。そこで彼はその計画性を買われます。もともとトマシュは優秀な人材なのです。

ヘイターの才能を開花させるトマシュ

フィットネス動画の配信者が宣伝したグッズで健康被害が出た」という情報を、ハッシュタグをつけて大量投稿。フェイク画像も綿密な作りで、配信者は追い詰められます。そして泣きながら活動停止を宣言する動画をアップ。トマシュはこうして配信者をひとり潰しました。上司に褒められ、達成感を味わうトマシュ。

その後、クラジュキ家のパーティに参加したトマシュガービと二人きりになります。なんだか最近親密になってきた二人。自分の鬱経験を赤裸々に語るガービに、トマシュはついつい論文の盗用で除籍処分になったことを告白します。

失望からヘイターの活動にのめり込んでいく

ガービと音信不通になってしまったトマシュ。調べてみると、最近ガービはスタシュク・リデルという青年実業家と交際している様子……。

得意の盗聴器をクラジュキ家に仕掛けるトマシュ。「あいつは精神を病んでいる」。すでに盗用のことは夫妻にも知られています。トマシュは馬鹿にされるどころではなく、自分がすでに相手にされていないと知るのでした。

ガービの裏切り、夫妻に見捨てられたとこに苛立つトマシュ。一方で、政治家のネガティブキャンペーンの仕事が舞い込んできます。ワルシャワ市長選挙に立候補している政治家ルドニツキ。白人至上主義が優勢のポーランドにおいて、彼は数少ないリベラル派で移民の受け入れにも寛容。さらに本人はゲイ疑惑もあります。

白人至上主義に反発する人々とって理想的なリーダー。彼を潰すのがトマシュの次の仕事です。トマシュは自分の手を汚しません。孫子の「兵法」を参考に、捨て駒になる差別主義者の男に目をつけます。一見アブナイ感じの男ですから、暴走したところで単独犯だと思うでしょう。適役です。トマシュはゲームのアバターを使い、彼に接触。そして煽ります。

支離滅裂に見えるトマシュの行動。この時あなたはどんな顔をしている?

優秀な人材であるにもかかわらず、生まれと立場のせいで底辺扱いを受けてきたトマシュ。自分よりも立場の危うそうな男からさらに搾取しようとする姿は、まさに現代社会の縮図のようです。

トマシュの社内の立場は「リベラル派を潰す」というものです。トマシュ個人のバックボーンからすれば、差別主義者が弱体化する方が良いに決まっているのですが……。

そしてやや考えさせるシーン、もともと疑惑のあるルドニツキを誘い、トマシュは彼とゲイクラブで踊ります。「ゲイクラブで踊っている」という現場の動画さえ隠し撮りできればオッケーだったはずの一コマです。

ところがトマシュは、なぜかルドニツキにキスをします。抑圧されていた感情が爆発したようなシーンでした。本編で語られてはいませんが、もしかしたらトマシュは同性愛者でもあったのかもしれません。凶悪でありながら、どっちつかずの意味不明な行動をとるトマシュ。そのトリッキーさに観ている方は首を傾げますが、一貫して「惨めさ」「怒り」の表情が彼に付き纏います。

映画『ヘイター』の結末は……

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本作の終盤、山場である“銃乱射事件”。これが実際にポーランドでおきた事件に酷似していたことは前述しました。現実で逮捕された犯人は、27歳の思想犯。まるで捨て駒を使えなかったトマシュのような……。

本作『ヘイター』のラストは衝撃的でかなり意味深で、いくつもの解釈ができます。それぞれが感じるところまでが本作の楽しみ方ではないかと思うので、文字でラストをネタバレするのは避けたいと考えているのですが……。

トマシュは何が欲しかったのかな、と。惨めさと不満と怒りで押し潰れたあとのカスみたいな青年でした。仕事、という名の「ヘイトで世の中を掻き回す活動」でトマシュは才能を発揮します。ただトマシュ、彼の根本にある負の部分を払拭できなければ、名声も承認も温かな人間関係も全てハリボテになってしまうと思うのです。

人間って正義を振りかざすとドーパミンが分泌されるようにできているんだそうです。つまり、他人を裁くと手取り早く気持ち良くなれるのですね。

ヘイター、誹謗中傷はいけないよね!プン!って、筆者そんな安易なことを語りたいんじゃなくって……。トマシュの凶悪、狡猾さは目立ちましたがそれなりに葛藤もしていました。人生始まった瞬間から格差社会の底辺に置かれ、以来ゆるいジャブを喰らい続けてきたトマシュ。「闇の部分」というとちょっと美化して聞こえますが、つまり憎悪ですよね。長い時間をかけて、漆みたいに何層にもなって彼の中に蓄積された憎悪

「へえ〜、すごいの作ったな〜」なんて、ポーランドの実情を他人事のように見ていられません。日本だって、憎悪が方々からかき集められて、塗り壁みたいになってきているじゃないですか……。

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